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マクナマラの誤謬

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[マクナマラの誤謬]2023.8.1

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 NHKの番組「映像の世紀」は、第1シリーズからずっと見ていますが、やはり映像の力は百聞は一見に如かずのことわざとおり訴求力が強いものです。現在は、バタフライエフェクトというシリーズを放映しており、今までのように一つの事件を追うというより、一つの人物にフォーカスして、歴史の映像を追っているというシリーズと言っていいかと思います。今回のそのシリーズの中で、最近放映された「マクナマラの誤謬」というベトナム戦争時代の米国国防長官マクナマラにフォーカスした番組を取り上げたいと思います。

 マクナマラという人物は、UCバークレー、ハーバードビジネススクールを卒業した後、社会人経験を経て、太平洋戦争中の米陸軍航空軍に入隊し、対日爆撃作戦において、“極めて”効率的な爆撃作戦を策定し、想定通りに日本を焦土と化し、多くの日本人の生命を奪った人物でしたが、戦後、フォードモーターで効率的な経営戦略を構築し、同社の社長にまで上り詰めた後、ケネディ政権において国防長官に抜擢されました。
 その後、アメリカはベトナム戦争という泥沼に突っ込んでいくことになり、マクナマラはデータ分析を駆使してベトナム戦争に勝利しようとしましたが、数値では計れないベトナム人の愛国心やアメリカ市民の反戦感情を計算に入れなかったため、300万以上の犠牲者を出し、最終的にはアメリカを敗北に導いた責任者の一人と言えます。その一つの例が「ボディ・アカウント」というものです。すなわち、マクナマラは「アメリカ兵の死亡数と敵兵の死亡数の比率」に着目し、「アメリカ兵の死者数よりも多く敵兵が死亡している限り、軍は勝利への道を進んでいる」と考えました。実際、その数値が高いことにより、部隊の成績が評価されるということが行われたのです。しかし、現場では、ベトナム兵以外の民間人の死者数なども“ボディ・アカウント”として水増し報告したので、結局、その指標は機能しなかったというものです。ここから、数字にばかりこだわり物事の全体像を見失うことを「マクナマラの誤謬」といわれるようになったのです。

 マクナマラの失敗は、結局、現場を見ずに単なる数字合わせを信じたところにありました。現場の兵士、部隊は、小役人根性で数字合わせ、勘定合わせさえすれば自分たちの責任は問われない、それどころか工作した数字により自分たちの戦功が評価されるということに思いが及ばなかったのです。B29による対日爆撃とか、フォードモーターにおける業務の効率化など、あまり数値以外の定性的要素が入り込まないケースにおいては、マクナマラの作戦は際立った結果を生んだのでしょうが、ベトナム戦争では、米兵以外のベトナム兵、ベトナム国民、さらには米国民という定量的要素以外の定性的要素が結果を左右したものと言えるでしょう。

 戦前の日本軍でもマクナマラの誤謬と同じようなことをやっていました。太平洋戦争が始まる前に、ソ連と満洲の国境付近(国境自体が不明確でしたが)で、ソ連軍と関東軍が軍事衝突をしたのがノモンハン事件でした。事件とは言われますが、事実上の戦争でした。両軍とも歩兵戦力に加え、戦車、航空機、火力を用意していたのですが、関東軍の戦車というのは、戦車という名前がついているだけの装甲車であり、攻撃力も守備力もソ連軍の戦車に全く及ばないものでした。しかしながら、関東軍の参謀は、同じ戦車という名前がついているのだから、多少の攻撃力・守備力に差があったとしても、その差は“精神力”で補うべしということで、戦車数の数字合わせをして両軍台頭として先頭を開始してしまいました。結果は、関東軍の完璧な敗退で、やはり戦車の名前をかぶせた装甲車は、ソ連軍の戦車に木っ端みじんにされてしまったのです。結局、ノモンハン事件は関東軍の大敗で終わったにもかかわらず、事件を起こした関東軍参謀の責任は問われず、事件の総括をすることもなく、ずるずると太平洋戦争に国家を突っ込んで、国家を破滅させたのです。国家を破滅させてからも、誰が主体的に戦争を始めたかも責任があやふやであったという現場を見ない、責任を取らない官僚の戦争だったと言えます。

 ノモンハン事件の関東軍参謀、マクナマラ国防長官、優秀と言われた人たちの“誤謬”は昔の話ではなく、現在でも、どこでも起きる可能性があるということです。具体的な例と言えば、日本ハムファイターズから逃げられた札幌ドームという例がありますが、これも札幌ドームの経営に無責任な札幌市の官僚たちが引き起こした“誤謬”と近い将来言われるようになると思われます。
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