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経営者保証に関するガイドラインについて

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[経営者保証に関するガイドラインについて]2014.4.1

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 あまり大々的に報道されていませんが、平成26年2月1日から、「経営者保証に関するガイドライン」というものの適用が開始されました。同ガイドラインは、日本商工会議所と一般社団法人全国銀行協会を事務局とする「経営者保証に関するガイドライン研究会」が平成25年12月5日に公表したものです。経済産業省(中小企業庁)も積極的に同ガイドラインの普及を応援しているようですが、果たして今後このガイドラインが普及していくのか、金融機関による融資にとり融資方針の大転換となるきっかけになるのか注目されるところです。

 中小企業庁のHPから抜粋しますと、同ガイドラインは、経営者の個人保証について、
  1. 法人と個人が明確に分離されている場合などに、経営者の個人保証を求めないこと
  2. 多額の個人保証を行っていても、早期に事業再生や廃業を決断した際に一定の 生活費等(従来の自由財産99万円に加え、年齢等に応じて100万円〜360万円)を残すことや、「華美でない」自宅に住み続けられることなどを検討すること
  3. 保証債務の履行時に返済しきれない債務残額は原則として免除すること
などを定めることにより、経営者保証の弊害を解消し、経営者による思い切った事業 展開や、早期事業再生等を応援するというものです。また、第三者保証人についても、上記A,Bについては経営者本人と同様の取扱となるというものです。

 現在の日本において、非上場企業が金融機関から資金を借り入れる場合、ほとんどと言っていいほど、金融機関から当該企業の経営者もしくは第三者の連帯保証を求めてきます。中小企業庁のHPでは、「経営者保証には経営者への規律付けや信用補完として資金調達の円滑化に寄与する面がある」と説明していますが、端的に言えば、経営者自身の連帯保証を取っておかないとずさんな経営をして資金を失ったとしても「借りた金だからなくなってもしょうがない。」というモラル・ハザードを引き起こす、また、貸付先の企業の資産と言ってもめぼしいものがなく、それだけでは金融機関が回収モードに入った場合にとりっぱぐれが生ずる恐れがあるので経営者の個人資産も回収の対象として保全しておこうという金融機関の意向にあったと思います。
 しかしながら、中小企業のHPでも、「一方、経営者による思い切った事業展開や、早期の事業再生等を阻害する要因となっているなど、保証契約時・履行時等において様々な課題が存在します。」と説明しているように、特に早期の事業再生の点について、経営破たんした企業の経営者はそれこそ家屋敷、預金など全ての資産を金融機関への弁済に供せられることとなり、素っ裸になってしまいます。日本において一度事業に失敗した人で再起できるケースが少ないというのは、やはり経営者保証における弊害と言って過言ではないでしょう。米国では、経営者の連帯保証を取らないというのはよく聞く話ですが、それでも融資先の会社の資産については担保を設定するのは当然のことです。日本でも、融資時に、会社の資産に担保設定するのですが、問題なのは、融資金が会社の資産から全額回収できなかった場合、例えば、融資時には担保価値が十分あった場合でも当該資産の価値が下落した場合に、日本であれば、不足額について連帯保証人の資産からも回収することが当たり前のようになっていますが、米国では、当該会社の担保資産からのみ回収ができるという「責任財産限定特約」(ノン・リコース・ローン)が通常なのですね。金融機関としても、借り手である企業の財務内容をよく調べて、当該企業の事業計画をよく吟味して貸し付けたわけですから、回収できない部分は貸し手責任としてのリスクという公平の原則が働いているようです。だからこそ、米国の金融機関は融資についての審査能力が身につき、経営者の連帯保証さえあれば貸し付けを実行するという安易な貸付審査を行ってきた日本の金融機関との間では、大きな審査能力に差がついたと言えるでしょう。

 今回のガイドラインでも、「経営者保証に依存しない融資の一層の促進」という章を置いて、金融機関に対しても奮起を促しているのが注目されますが、気になるのが信用保証協会の対応です。というのも、現在においても、金融機関の単独融資であれば、連帯保証債務についてある程度の一部履行すれば(多くのケースは、金融機関が保有していた貸付債権を債権回収会社(いわゆるサービサー)に売却して、債権回収会社との間で一部保証を履行して、)残保証債務額については免除してもらうという和解ができるのですが、信用保証協会が代位弁済した債権については、(信用保証協会の建前としては、)血税で信用保証協会は成り立っているので納税者に対する関係で安易に債権を免除できないということで、とにかく全額元本を支払え、月1万円でもいいから支払えと一部履行残部和解に応じてくれません。金融機関のプロパー融資については、和解が成立して解決しても、信用保証協会分については和解できず、泣く泣く月1万円を支払っているか、最悪破産してしまう経営者も多くいます。信用保証協会のHPをみると、同ガイドライン適用後は、新規融資や、融資条件変更の場合、「信用保証委託契約附帯契約書」なるものを差し入れることとなったようで、その付帯条項というのは、次のものです。
 「保証人が原契約に基づく保証債務の整理について2013年12月5日に経営者保証に関するガイドライン研究会(全国銀行協会および日本商工会議所が事務局)が公表した経営者保証に関するガイドライン(公表後の改定内容を含む。以下「ガイドライン」といいます。)に則った整理を申し立てた場合には、貴協会がガイドラインに基づき当該整理に誠実に対応するよう努める。」
 ということは、同ガイドラインにおいては、「(以下の)全ての要件を充足する場合には、対象債権者は、保証人からの保証債務の一部履行後に残存する保証債務の免除要請について誠実に対応する。」という記載がありますので、今後は、保証協会も一部履行残債務免除の門戸を開けたといえるのでしょうが、かような一筆を入れさせるということは、経営者保証を原則とらないというのではなく、原則経営者保証を徴求し、何かあった時には一部履行すれば残債務の免除も検討しましょうというレベルでの対応でしかないようにも見えます。一般金融機関の今後の対応のみならず、信用保証協会の対応もウオッチしていく必要があります。

(参照HP)
 日本商工会議所HP:http://www.jcci.or.jp/news/2014/0116130000.html
 全国銀行協会HP :http://www.zenginkyo.or.jp/news/2014/01/16130000.html
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