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商船三井貨物船差押事件

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[商船三井貨物船差押事件]2014.7.1

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 もう数か月前になりますが、商船三井所有の貨物船(Ore Carrierと表記しているので、鉱石運搬船でしょうか。)が、中国で差し押さえられたという事件がありました。(まず、話の枕として、商船三井という会社は、なんで三井商船と言わないのか、三井系列の会社でしょと一般の人は思うかもしれませんが、正式名称は、大阪商船三井船舶株式会社であり、住友系の大阪商船と、三井系の三井船舶が合併してできた会社なので、略称商船三井となった住友・三井系の会社です。英語表記では。Mitsui OSK Lineとなり、MOとかMOLとか呼ばれています。閑話休題)何でも、1936年に中国企業が商船三井の前身会社に船舶2隻を貸し出したのですが、その2隻はどうやらどっかで沈没してしまったようです。そこで、2隻の所有者が1988年に、中国内裁判所である上海海事法院に損害賠償を請求し、2007年に至り、同裁判所が、商船三井に約29億円の支払いを命ずる判決を下しました。商船三井は、再審を申し立てたのですが、2011年にその申し立てが棄却され、当該判決が確定したというのです。商船三井は原告側とそれでも和解できないかと交渉を続けたのですが、今年に至り、差押という強制執行を受けたというものです。

 この事件の記事を読んで論点は色々ある(対日賠償請求の放棄を規定した1972年の日中共同声明との関係、請求権の消滅時効適用の問題など)と思うのですが、まずは何よりも商船三井のコメントが「差押は寝耳に水である。」とのんきなことを言っていることが同社の危機管理の甘さを露呈しているのではと思った次第です。
 というのも、判決が2011年に確定したのだから、幾ら相手方と和解交渉を続けているからと言って確定判決に基づく強制執行を考慮しなかったというのは、言い訳にならないでしょう。今回の差押を見る限り、中国の裁判所だからというのは違うと思います。私が顧問であれば、原告側と和解交渉はするにしても、中国国内の商船三井所有の資産を極力少なくすることを指示したでしょう。このようなことは、名義を仮装・所在を隠蔽するなどの悪質な行為がなければ、強制執行免脱とはならず、債務者としての当然の防衛行為です。船舶という重要な資産についても、わざわざ中国国内に入港すれば、飛んで火にいる夏の虫になるので、中国国内に寄港させないようにすることはできたはずです。今回の差し押さえられた船舶は、Baosteel Emotionという名前ですが、何と船籍は日本なのですね。
 ところで、皆さんは、よくパナマ船籍の船舶とか、リベリア船籍の船とか聞いたことがおありかと思います。私も昔は、パナマとかリベリアにはお金持ちがいて、船を沢山持っているのだなあと思っていたのですが、実はこれらの国は、便宜置籍船国といわれる国々です。便宜置籍船というのは、日本や欧米の会社が、船籍だけをこれらの国で登録するだけで、実際にはそれらの国には就航しない(パナマの場合、パナマ運河を通るという意味では行くのでしょうけど。)というものです。なんでそんなことをするかというと、最近はわかりませんが、以前、日本船籍の船ですと、船長以下船員は日本人でなければいけないとか、他の国では、船舶に対する課税が売り上げは利益に比例してなされるなどの厳しい規制があったので、そのような規制を嫌い便宜置籍船にすれば、毎年の税金は一定額で済み、船員もフィリピン人船員など給与の安い労働力を使うことができるということで経済合理性から生まれた制度でした。便宜置籍船国にしてみれば、登録料だけでも毎年何万隻と入ればこれ幸いというものでしょう。最近は、各国とも便宜置籍船国に流れないように、課税要件や船員要件を緩和したり、建造する際に補助金を出したりしたりして自国の船籍を取るように奨励しているようです。多分、Baosteel Emotionも色々な事情で日本船籍としたのでしょうが、商船三井とすれば、中国に入港する船については、便宜置籍船か、他国の船籍の船をチャーターすることもできたのではないでしょうか。特に便宜置籍船ですと、誰の所有かというのは一見してはわかりにくいという事情もありましたでしょうし。ただ、Baosteel Emotionについても、商船三井から別の会社に貸し出して(これを用船、傭船と言います。)いて、自らのオペレーション下になかったのかもしれません。もし、所有船舶が差押されていなければ、商船三井もまだまだ強気に原告側と交渉ができていたでしょうに、差押をされたがために、泣く泣く40億円もの担保を積み、同船舶も中国を出港できたわけですが、実質的には、これでジ・エンド、担保金を賠償金として相殺されて支払わされるということになると思われます。同船舶は、豪州と中国間で多分鉄鉱石や石炭を運んでいるのでしょうか、今も元気に両国間を漕ぎまわっているようです。
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