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パナマ文書とお金の歴史(その2)

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[パナマ文書とお金の歴史(その2)]2016.6.1

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 その1では、タックスヘイブンといういわば国家の徴税制度に対する鬼っ子のような存在についてお話ししましたが、このような脱税とならなくとも合法的な課税回避、節税が進んでいくことは、非常に国家にとっては深刻な問題となります。最近出版された書籍で「お金の流れでわかる世界の歴史」大村大次郎著・株式会社KADOKAWA出版というものがあります。著者は、元国税調査官で税金に係わる著作を何冊も出されていましたが、歴史ものを書かれたということで早速読んでみました。

 なるほど、さすが元国税調査官、税金やお金の流れの切り口で書かれていて、非常に興味深く読んでみました。その中でも一番興味があったのが、古代エジプトと古代ローマにおける徴税制度についての記述です。著者は、“古今東西、国家を維持していくためには、「徴税システムの整備」と「国民生活の安定」が絶対条件なのです。”と結論付け、古代エジプトはこのバランスがとれていたために3000年ものあいだ平和で豊かな時代が継続できたとしています。ではどのようにして徴税システムを整備していたかというと、古代エジプトでは土地は国有であり、人民は土地を貸与され、「書記」という官僚が、(徴収した税金から収入を得るのではなく、)国家からの給料をもらい、官僚の仕事として人民から税金を徴収をしていたということです。書記らは清廉潔白な官僚群であり、非常に効率的かつ公平な徴税機能を発揮していたというものです。しかしながら、古代エジプト末期にはそれら書記らが私腹を肥やすようになり、効率的公平な徴税機能が果たせなくなったのに加え、「アメン神殿」という宗教団体が非課税特権を悪用し、本来国家に納められなければならない税金をアメン神殿が吸収するシステムを構築し、強大な力を有するようになり、紀元前1080年頃に、古代エジプトが崩壊してしまったというものです。

 また、古代ローマにおいても当初は国家運営の経費も余りかからず、またスペインで産出された金銀などが国家財政を支えていたのですが、共和政末期に収穫税を導入した頃から徴税システムがおかしくなります。収穫税を徴収するのに、古代エジプトのように官僚が徴収するのではなく、徴税請負人と言う業者に徴税業務を委託してしまったのです。徴税請負人は、徴税の最大化を目指すため下請けの徴税請負人を雇い、中間マージンの負担分を税額に上乗せするために税負担が増し、各地で反乱がおきるようになりました。そこで、アウグストスが初代皇帝となり、徴税請負人をなるべく通さず直接徴税を行おうとして、徴税の簡素化及び公平化を目指したことにより一旦は徴税システムが安定したものの、結局うまくいかず、裕福な貴族・大地主は賄賂を使って税の減額や免除を受け、重税に苦しむ市民・農民は土地をそれらの減免を受けたものに寄進して配下となることで税を免れるということとなり、最終的にローマ帝国はまともな徴税ができなくなり、崩壊してしまったというものです。

 古代エジプトで起きたこと、古代ローマで起きたこと、これらはどこかの国でもあったとことと非常に似ていませんか。そうです、日本でも荘園というものが出てきて、結局律令国家という徴税システムが事実上崩壊してしまい、最終的には武士の国家になってしまったことと同様のことと言えます。荘園制度と言うのは、決して法に反する脱税ではなく、三世一身の法、墾田永代私有令から始まる公地公民制を骨抜きにする合法的な法令から始まり、稲が生えていても「これは私の私的な庭です。」と言う屁理屈を通じて不輸不入(非課税・徴税官の立ち入り禁止)の特権を獲得していった藤原氏などの貴族、大寺社が私的財産を増やしていきました。さらには、一般農民までもが重い税金を支払うくらいなら、免税特権がある貴族・大寺社に農地を寄進して、その配下となり“安い”お目こぼし料を支払うことで済ませると言うことで、どんどん公地公民制が加速度的に崩壊して行ったのとまったく同じ構図です。

 翻って、現在のタックスヘイブンというものは、「荘園」化して行くのではないでしょうか。平安貴族のように「これは私の庭にすぎません。」と言う屁理屈をどこからか見つけてきて、“合法的”に租税回避をして行くでしょう。実際、グローバル企業は母国での重い法人税を嫌い、低法人税国である例えばアイルランドとか、タックスヘイブンであるケイマン諸島などの税法制を組み合わせて、安い税負担に仕上げることを当然のごとくしています。新聞記事などでは、フェイスブックの英国法人は、法人税を80万円しか支払っていないというものです。ちなみに、同社の従業員の給与等は一人当たり3900万円と洒落としてはきついものです。荘園寄進の問題についても、我々のような“非貴族・非大寺社”でなくとも、タックスヘイブンを使った投資ファンドの商品を購入することができる商品も出てきていることから、どんどん促進されていくのではないでしょうか。そうすると、我が国をはじめ先進諸国もどんどん税収が失われて行き、国家経営ができなくなることも絵空事ではなくなるのではないでしょうか。そうなるとますます現代の藤原氏は富み、人民は苦しむということになってしまわないでしょうか。そのうち、一般人の会話で、「今度うちの八百屋をアイルランド法人としましたよ。」とか、「日本の銀行の定期を解約して、ケイマン諸島の銀行の定期にしましたよ。」という会話が日常化されるのでしょうか、いいことか悪いことかはともかく。
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