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JASRACの暴走(?)について

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[JASRACの暴走(?)について]2017.6.1

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 井の頭通りを走っていると、代々木上原駅の反対側の道路沿いに、住宅街には珍しい立派な建物が見えてきます。その一部は、古賀政男音楽博物館ですが、隣接するビルに日本音楽著作権協会(JASRAC)が入っているということで、著作権管理でそんなにビルが建つのかと驚いたことがあります。
 今年4月、京都大学の入学式の式辞の中で、山極総長が、ボブ・ディランの歌「風に吹かれて」の一節を、「自由な発想」に関する説明の一環で紹介したことにつき、JASRACがウェブ上に掲載した分の使用料を京大に請求していることが新聞報道されていました。JASRACの見解は「一般論として、ウェブ上にある音楽著作物には利用手続きが必要となり商用目的でなくても、歌詞を印刷できる仕様でウェブ上に掲載すると、1回の閲覧につき数十円が必要になる場合がある。」というものです。
 他方、JASRACは、音楽教室で楽器などを演奏することに対し、著作権使用料として、年間受講料収入の2.5%を18年1月から徴収する方針を示したところ、音楽教室大手のヤマハ音楽振興会は、「教室での演奏には、著作権は及ばない」として、JASRACへの支払義務がないことの確認を求める債務不存在確認訴訟を、7月にも東京地方裁判所に提起することを決めたという報道もありました。それに対し、JASRACは、「法律の枠組みの中で、十分検証したうえでの権利行使」とコメントしています。

 世の中の反応は、結構JASRACに厳しいものが聞こえてきます。一般人の感覚としても、大学の入学式での式辞に歌詞を引用することや、音楽教室の練習で演奏することについてまで著作権使用料が発生するというのは、納得がいかないものがありますが法的にはどう解釈すべきでしょうか。
 まず、大学の入学式での歌詞の引用ですが、著作権法32条1項においては、「公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。」と規定されています。すなわち、著作物を“引用”として利用する場合は、著作権法違反とはならない、著作権使用料を支払わなくてもいいということになるのです。その条件として、“公正な慣行に合致すること”、“報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるもの”というのが規定されています。京都大学の入学式での“引用”ですが、どうやら引用部分とそれ以外が明瞭に区別されており、引用部分よりも総長の発言部分が上回り、ボブ・ディランの歌「風に吹かれて」という出典の記載もあることから判断すれば、“公正な慣行”要件はクリアしているとも判断でき、また、国立大学法人の入学式という“目的上正当な範囲内で行われる”という要件もクリアするのではないでしょうか。
 次に、音楽教室の事案については、どうでしょうか。著作権法35条2項においては、「公表された著作物については、前項の教育機関(注、学校その他の教育機関(営利を目的として設置されているものを除く。)のことです。)における授業の過程において、当該授業を直接受ける者に対して当該著作物をその原作品若しくは複製物を提供し、若しくは提示して利用する場合又は当該著作物を第三十八条第一項の規定により上演し、演奏し、上映し、・・・を行うことができる。(以下省略)」と規定されています。従い、小学校などの音楽の授業で、公表された著作物である歌詞を基に演奏することについては、著作権法違反とならず、著作権使用料にならないということになりますが、JASRACは、ヤマハ音楽教室や、カワイ音楽教室などについては、営利を目的として設置されている教育機関であるから対象外という論理を主張しているものと思われます。確かに、大学予備校などは、国語の問題文などについては、著作権使用料を支払っているとも聞きますので、ヤマハ・カワイについても支払義務が生じるのではないかと思われるのですが、そのあたり、ヤマハの訴訟代理人はどのように論理展開していくかが興味あります。

 確かに、JASRACは、著作権者の代理人として著作権法に基づいて“正当な”権利行使をしているのかもしれません。しかしながら、果たしてこのような事件を起こしてでも、当の著作権者たちはどんどんやってくれと思っているでしょうか?
 弁護士的には、法改正をしないとヤマハのケースは難しいかと思いますが、ヤマハ音楽教室らが我が国における幼児の音楽教育の普及について多大な貢献をしてきたことを全く捨象した権利行使というものが果たして国民の支持を得られるものか疑問に思います。著作権法の上位法である民法のそれも第1条には、1項で「私権は、公共の福祉に適合しなければならない。」、同2項で「権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。」、同3項で「権利の濫用は、これを許さない。」と規定されています。何でもかんでも権利を行使できるものではないということです。

 星新一のショート・ショートで面白いものがあるとのことです。ショート・ショートを更に要約すると、ある人が絶海の無人島に漂流しました。砂浜にSOSなどを書いても全く救助は来ません。そこであきらめてか、鼻歌を歌ったところ、JASRACの徴収人が直ちにやってきたというものです。その徴収人が、漂流者を救助したのか興味がありますが、何だかJASRACに関わる問題の本質を示唆しているようで面白い話です。
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