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新型コロナ特措法について

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[新型コロナ特措法について]2020.5.1

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 新型コロナ特措法というのは、平成24年に制定された新型インフルエンザ等対策特別措置法が、令和2年3月13日に改正された同法の改正法のことを指します。同法の内容として一番重要なのは、全国的かつ急速なまん延により、国民の生活及び経済に甚大な影響を及ぼし、又はそのおそれがあるものとして政令で定める要件に該当する事態となった場合、政府対策本部本部長(内閣総理大臣)は「新型インフルエンザ等緊急事態宣言」(以下、「緊急事態宣言」といいます。)を行うことができるというものです。緊急事態宣言は、新型インフルエンザ等緊急事態措置(以下、「緊急事態措置」といいます。)を実施すべき期間、緊急事態措置を実施すべき区域等を公示し、国会に報告するものとされています(同法32条)。今回、令和2年4月7日に、政府は、同法32条1項に基づく緊急事態宣言を発令し、緊急事態措置を実施すべき期間は、4月7日から5月6日まで、緊急事態措置を実施すべき区域は、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、大阪府、兵庫県及び福岡県の7区域としたことはご承知のとおりです。

 緊急事態措置には次のようなものがあります。
①外出制限要請、興行場、催物等の制限等の要請・指示
②住民に対する予防接種の実施
③医療提供体制の確保 臨時の医療施設を開設するため、土地や建物を強制使用することも可能(49条)
④緊急物資の運送の要請・指示
⑤医薬品、食品その他の政令で定める物資の売渡しの要請・収用
⑥埋葬・火葬の特例
⑦生活関連物資等の価格の安定
⑧行政上の申請期限の延長等
⑨政府関係金融機関等による融資

 都道府県知事は施設の使用停止等の要請(休業要請とも呼ばれる)を同法24条9項または45条2項のいずれかを用いて行うことができるとされています。しかしながら、罰則が適用されるのは、⑤において特定物資の隠匿などに対してだけであり(同法76条)、①の外出制限、興行場、催物等の制限に対する違反に対しても、罰則は定められていません。

 また、損失補償や損害補償等については、国、都道府県は、検疫のためにやむを得ず特定病院等を同意なく使用する場合や臨時の医療施設開設のため(緊急事態措置③に当たる場合)、土地等を使用する場合等による損失を補償しなければならない。また要請や指示による医療等を行う医療関係者に対して、実費を弁償しなければならない(62条)。要請や指示による医療の提供を行う医療関係者が、そのため死亡や負傷した場合等は、損害を補償しなければならない(63条)と定めていますが、外出制限要請、興行場、催物等の制限等の要請・指示に従った場合の損失補償や損害補償については定められていません。緊急事態措置③については、憲法29条3項で「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。」と定めてあることが根拠となるようです。

 ここで問題となっているのは、諸外国では緊急事態措置と同様の法令があり、それらの多くには遵守しなかった場合の罰則が定められているのに、日本においては(緊急事態措置の⑤を除いて)罰則が定められていないので果たして実効性があるのか、やはり罰則をつけなければいけないのではないかという議論です。確かに、外出制限を東京都知事が要請しても、秋葉原のメイドカフェで留飲を下げている中年オヤジは言うことを聞かないでしょうし、バー・クラブの営業制限を要請しても、お客が来るからと言って開けている店も少なからずあるようです。この問題は、個人の人権と感染症を蔓延させないための措置の必要性との利益衝突の問題といえます。例えば、緊急事態措置の外出制限要請は、個人の移転の自由(憲法第22条「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。」)を制限するものですし、興行場、催物等の制限等の要請・指示は、個人の営業の自由(やはり憲法22条に根拠)を制限するものです。

 居住・移転の自由、営業の自由というのは、憲法学的には「経済的自由権」といわれる人権で、比較的公益との衡量においては制限する公権力側の裁量を広く認めるといわれています。そうだとすると、新型コロナウイルスの蔓延防止のためということであれば、政府の裁量を広く認め、罰則をつけることも可能ではないかとなりうるということです。しかしながら、居住、移転の自由というのは単なる経済的自由権ではなく、「幸福追求権」(憲法第13条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。)の要素も含まれるのではないかということです。すなわち単なる商売としての行動の自由だけではなく、個人の人格を形成するための行動の自由というものは通常の経済的自由権よりも高く尊重され、制限は最小限にとどめるべきとも考えられるからです。また、何人かが集まることを制限する場合は、集会の自由(憲法21条1項「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。)という「精神的自由権」の制約にもかかわってきますので、最小限の制約によるべきといえましょう。

 そうだとすれば、やはり外出制限の要請に違反したからと言って重い罰則を制定することはやはり憲法上問題があるといえるかと思います。営業の自由については、同じ条文にあるとはいえ、居住、移転の自由よりは公益による制限の裁量が広く認められてもいいのかと思いますが、その受忍の限度を超える制限については、上述した憲法29条3項を広く解釈することにより補償を行うべきと考えます。今回の東京都の興行場、催物等の制限等の要請に従って事業者に対する補償は,その金額の適否はともかく、この考えに沿ったものとしてとらえられることができると思います。もし、行動の自由に制限をつけるとしても、どこかの国のように懲役刑まで制定するのは最小限の制約とはいえないと思いますので、夜間に限った外出禁止とか、罰金刑による処罰とか、感染症の蔓延防止という公益を達成するための最小限の規制であれば、私は罰則制定も憲法に違反しないものと考える次第です。もっとも、日本人の規範意識の高さは、罰則を設けなくても“自粛”という自主規制において、緊急事態措置が目的を達成できることを5月7日に証明されるのが一番だと思います。
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