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昭和16年夏の敗戦 |
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[昭和16年夏の敗戦]2020.10.1
猪瀬直樹は、東京都知事をつまらない金銭問題で味噌をつけ、任期途中で辞職してしまいましたが、ノンフィクション作家としては、きらりと光る著作を出しています。有名なところでは、大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した「ミカドの肖像」があります。西武グループと皇族の関係を詳述し、何故「プリンスホテル」というのかわかり、目からうろこが落ちた記憶があります。さらに有名なところと言えば、「昭和16年夏の敗戦 総力戦研究所"模擬内閣"の日米戦必敗の予測」という著作があります。私は30年以上も前に読んだ記憶があり、猪瀬直樹が戦前の総力戦研究所の存在を掘り起こしたことに感銘を受けたのですが、最近になり、本屋に行くと同書が再び脚光を浴びているのか、旧版に石破茂との対談を増補して新版として棚積みされていましたので、思わず買ってしまいました。
同書の概要は、「昭和16年、すなわち太平洋戦争開戦の年の4月に、当時の帝国政府が「総力戦研究所」という機関を立ち上げて、30代前半の精鋭が集められた。大蔵省、商工省といった省庁のエリート官僚、陸軍省の大尉、海軍省の少佐、さらには日本製鐵、日本郵船、日銀、同盟通信(のちの共同通信社)の記者まで。総勢30人が、もしアメリカと戦争をしたら、日本は勝てるのか、そのシミュレーションをした。大蔵官僚は大蔵大臣、日銀出身者は日銀総裁、記者は情報局総裁というように、それぞれが役職について「模擬内閣」を作った。出身の省庁や会社から、できうる限りの資料、データを持ち寄って検討していった。侃々諤々の議論を経て出た結論は、「緒戦は優勢ながら、徐々に米国との産業力、物量の差が顕在化し、やがてソ連が参戦して、開戦から3−4年で日本が敗れる。」であった。」というものです。 同書のタイトル「昭和16年夏の敗戦」のとおり、総力戦研究所の若手メンバーのシミュレーションにより、昭和16年夏の時点で、日本が対米戦を行えば敗れるということが帝国政府にはわかっていたという歴史的事実が驚きです。机上の計算にも拘らず、民間人も含めた、また年齢的にもまだ自由な立場でものが言える官僚、軍人たちが、自分が内閣総理大臣だったら、陸軍大臣だったら、日銀総裁だったらどう判断するか、どう行動するかという模擬演習をしたので、バイアスがかからずはっきりとした結論が出され、それも原爆投下以外はほとんど実際におきた事象を的中したものです。 この総力戦研究所の模擬演習の結果から、現代の私たちが学ぶところは多いと思いますが、私が思ったのは3点あります。まずは、何かを始めるときには徹底的にシミュレーションしてみることが大事、それも、一人の頭・眼だけではなく、立場の違う人の頭・眼においても検討してみることが重要と思う次第です。総力戦研究所では、上述したとおり、官僚・軍人だけではなく、民間人もメンバーとして入っていたことが重要だと思います。民間人メンバーが模擬演習の主導権を取ることがなかったとしても、民間人の頭・眼からの意見が封せられず、少なからず尊重されたということが、客観的な敗戦という結果を導き出したものと思います。官僚と軍人だけで模擬演習をやっていたら、“開戦から2年後に辛くも日本軍の勝利”というような日露戦争を彷彿させる結論を導き出していたかもしれません。シミュレーションを行う際には、まず結論ありきではなく、真っ白な頭で考え、自分と立場の違う人たちも参加させるということが重要と思った次第です。 第2に、シミュレーションの結果を用いる側においても、自分たちの考えに合わないからといって直ちに切り捨てるという独善的な受け止め方ではなく、自分たちの考えに合わなくても、客観的にシミュレートされた結果を素直に受け入れ、かつ、多くの人が利用できるようなシステムが重要と思います。総力戦研究所の模擬演習の結果について、当時の近衛内閣の東条英機陸軍大臣は、完全無視を決め込みました。近衛首相は、どのような受け止め方をしたかすら記録に残っていません。「アメリカと戦争をすれば負ける」という折角の模擬演習の結果について、素直に軍部が受け止めていたら、東条英機がその結果を陸軍内部に広く開示し、軍内部での討議がなされていたならば、太平洋戦争を回避できたかもしれませんし、回避できなくともシミュレーション通りに進めないように展開を試みることができたのかもしれません。それは海軍でも、各省庁でも言えたことではないでしょうか。 最後に、現代の我が国においても総力戦研究所を復活させてはどうかというアイデアです。中国にGDP2位の地位を奪われてから、彼の国との差が広がるばかりであり、ITという新しい分野においても、米国、中国の背中が遠く見えるばかりです。今一度日本を復活させるために、昭和16年の総力戦研究所のように、各界から優秀な若手・中堅層を選抜し、模擬内閣を結成し、自由な立場から、あらゆるアクセス可能な資料をかき集め、10年後の日本はどうあるべきか(もっと具体的な演習目標が必要というのであれば、“如何にして中国に勝つか”など)を討議して、具体的な結論、すなわちビジョンを国民に提示してほしいと思います。メンバーは、昭和16年の時よりも当然民間人を増やし、官僚たちと同数として決して官主導とならないような工夫も必要だと思います。アベノマスクを配るような予算があれば、新・総力戦研究所をぜひとも設立してほしいと思った次第です。 |
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