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シンドラー・エレベーター事件 |
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[シンドラー・エレベーター事件]2012.12.1
本年10月末に起きた金沢でのシンドラー・エレベーター死亡事故ですが、その後目立った進展もなく、警察当局もなかなか立件の決め手を欠いているように見えます。そこで、今後本件はどのような展開を見せていくのかを、平成18年に東京都港区で起きた同社エレベーターによる高校生の死亡事故の顛末を参照しながら、考えてみたいと思います。
まず、かようなエレベーターによる死亡事故が起きた場合、当事者がどのような法的責任を追及されるかですが、大きく刑事上の責任、民事上の責任および行政上の責任に分けられます。 今回の金沢事故でも石川県警が、「業務上過失致死罪」の容疑で、シンドラー社とメンテ業者の日本エレベータ工業を調査しているようですが、そもそもの事故原因が究明できず、苦労しているようです。業務上過失致死罪が成立するには、「その事故が発生することを予見可能であったこと(予見可能性)」と「その様な事故が発生することを回避する努力をしなかったこと(結果回避義務)」が要件となります。そこで、平成18年の港区の事故の刑事裁判がどうなったかを調べたのですが、驚くべきことがわかりました。というのも、まだ公判が開始されていないのです。 現在の刑事裁判においては、だらだらと長引くことを避けるために、「公判前整理手続」という制度が導入されています。すなわち、皆さんがイメージする法廷での裁判(これを公判と言います。)の前に、検察側と被告人側とで争われるべき争点について、事前に整理しておこうというものです。たとえば、ナイフで人を殺したという事件で、検察側は殺人罪だと主張し、被告人側は傷害致死罪を主張しているというような場合は、「殺意の有無」が争点ということになりますので、公判前整理手続において、この争点について、検察・被告人側どのような主張立証するかを整理して、公判に臨むことになります。特に、殺人罪のような重大事件は、現在では、裁判員裁判に付されることとなり、一般人である忙しい裁判員の負担をできる限り少なくするという意味で、公判前整理は非常に重要になっています。しかしながら、平成18年(何と6年前!)の港区事故については、まだ公判前整理が終わっていないというのです。たぶん、上述した予見可能性及び結果回避義務の主張立証について検察側も決め手を欠き、鑑定を繰り返しているなどの事情があるのだと思いますが、幾らなんでも6年間も(一般人の感覚でいう)裁判が開かれていないのはいかがなものかと思います。この裁判の結果があれば、今回の金沢事故についても指針が見えてくるかと思ったのですが、先例が出ていないので、今回の事故についてもし同様に業務上過失致死罪でシンドラー側が起訴されたらどのようになるかは、相当アバウトな推論となりますが、考えてみたいと思います。 平成18年の港区事故の裁判においては、シンドラー側は「事故の前の点検では、ブレーキに関する装置に故障はなかった」と無罪を主張するとのことで、事故が起こることについての「予見可能性」がなかったことをまず主張すると思われます。また、「予見可能性」があったとしても、当時の建築基準法に従ってエレベーターの安全装置を設置しているので、メーカーとしての「結果回避義務」を十分果たしていると主張しそうです。これらの点について、どのような結論が出されるかは、6年もかけて公判前整理手続をやっているのですから、さぞや立派な判決がなされるものと期待しますが、それでは、今回の金沢事故ではどうなるでしょうか。 平成18年から現在に至るまでに起こった事情としては、まず、同事故後もシンドラー社製エレベーターが事故や不具合を起こし続けていることがあげられます。平成18年11月に東京工業大学すずかけ台キャンパス内にある同社製エレベータが不具合を生じており、平成19年5月にはシンドラー社が保守点検を行っている東京都杉並区にあるマンションでエレベータを吊るすワイヤーの一部破断事故が発生し、以後も数多く事故を起こしています。果たして事故を起こしたのが、港区事故と同型のエレベーターかまでは分かりませんが、そうだとすると、シンドラー社においては、今回の金沢事故当時において、同型エレベーターにおいては重大事故が起こりうるという予見可能性はあったと言えるのではないでしょうか。 また、港区事故以降、国土交通省は建築基準法を改正し平成21年以降に設置するエレベーターには通常ブレーキのほか、扉が開いたままカゴが上昇・下降することを防ぐ補助ブレーキの設置を建物所有者に義務付ける法改正を行っています。しかしながら、今回の金沢事故のエレベーターが設置されたのは、平成10年であり、同改正の適用外となっていたのです。このことから、シンドラー側は、お役所がやれということはやっていましたので、結果回避義務は果たしていますという反論をしてくると思うのですが、果たして、その様な反論が通じるでしょうか。 確かに、シンドラー側(及びホテル)は、“行政上の取締規定”は守っていたのですが、上述した通り、刑事上の責任と、民事上の責任と、行政上の責任とはそれぞれ別個のものであり、別個に解釈されます。従い、行政上の責任については問題なくとも、刑事上・民事上の責任を問われることは十分にあり、かような事故の「予見可能性」があった場合、やはり、メーカーとしては、多大な費用を掛けても、補助ブレーキを設置しなければ、結果回避義務を果たしたとは言えない可能性が十分あります。ですから、今回の金沢事故でシンドラー側が起訴されるとすると、港区事故よりも厳しく処断される可能性は十分高いと思われます。なによりも、シンドラー側が港区事故の刑事責任がいまだに明らかにされていないことに甘えていたとしたら極めて怠慢としか言えないでしょう。 ここまで書きまして、刑事上の責任でも相当色々なことがある事件で、民事上の責任についてはこれも色々とありますので、折見て別稿で述べさせていただきます。 (JCASTニュース) http://www.j-cast.com/2012/11/01152411.html?p=all |
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