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東電株主代表訴訟の行方

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[東電株主代表訴訟の行方]2022.9.1

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 2011年3月に起きた東京電力福島第一原発事故に関し、7月13日、東京地裁は、同社株主が旧経営陣5人に対し、「津波対策を怠り、会社に巨額の損害を与えた」として総額22兆円を賠償するよう求めた株主代表訴訟に対する判決がなされました。何と驚くことに、裁判所は、巨大津波を予見できたのに対策を「先送り」して事故を招いたと認定し、旧経営陣の取締役としての注意義務を怠ったとして、勝俣恒久元会長ら4人に連帯して13兆3210億円を支払うよう命ずるものでした。

 株主代表訴訟というのは、会社が不祥事を起こしたときに、会社自体が責任のある取締役に対して責任追及をしない場合、株主が会社に代わって取締役や監査役の責任を追及するという制度です。従って、株主が今回の事件のように勝訴しても、株主に13兆円が支払われるのではなく、責任ある取締役から東京電力という会社に13兆円が支払われることとなり、会社の財産が修復されたのですからまわりまわって株主の利益になるというものです。しかしながら、損害額が1億、2億というのであれば、東京電力の旧経営陣にとっても支払えない額でないかもしれませんが、13兆円となると、それも“連帯して支払え”ですから、4人で13兆円を分けて3.25兆円を支払えばいいというものでなく、13兆円全額の支払義務があるというもので、ソフトバンクの孫さんですら“たったの”2兆6000億円しか資産がないので、とても現実的な損害賠償額と言えないでしょう。巨額の損害賠償責任を負わされた旧経営陣は、直ちに控訴したということでまだこの判決が確定したわけではありませんが、今後どのようなシナリオが考えられるかを考えてみました。

 まず、今回の判決には、「仮執行宣言」が付いているとのことです。仮執行宣言というのは、判決が確定する前、すなわち控訴して判決未確定の段階においても、“仮に”財産を差し押さえることができるという制度です。原告の株主たちは、東京電力に対して、旧経営陣の財産につき仮執行をしろと要求しているようですが、東京電力はネガティブな態度を取っており、原告株主らは、「それならば、原告株主が仮執行の申立てをするぞ」と息巻いているとのことです。東京電力旧経営陣にとって、主たる財産というと自宅の土地建物、預金や株式などの有価証券ということになりますが、預金はどこの金融機関にあるのか、株式はどのような銘柄の株式を保有しているのかがわからないと差押えできず、自宅の土地建物であれば、住所から手繰り寄せて調べることができますので、原告株主らが仮執行するというと、旧経営陣の自宅ということになりましょう。しかし、旧経営陣にとってみれば、サラリーマン重役としてようやく形成した資産であり、差し押さえられて競売されると他に住むところもないでしょうから、「執行停止の申立て」をして、ひとまず仮執行の手続を止めることが必要になります。しかしながら、控訴審、上告審においても株主勝訴の判決となり、判決が確定されますと、手続が停止していた執行手続が動き出し、自宅の土地建物が競売されるということになります。そうなると、金融資産はともかく、全くのすってんてんになってしまうことになります。

 そこで、旧経営陣としては、控訴審において訴訟上の和解を考えることとなりましょう。控訴審の高等裁判所の裁判官にとっても、あまりの現実味のない賠償額をそのまま肯定しても究極の問題解決とならないと判断すれば、結局個々の旧経営陣が支払えるマックスでの和解を勧めるものと思われます。もっとも、原告株主らが全く和解に応じないという姿勢であれば、控訴審においても判決ということになりますが、またここでも13兆円でなくとも巨額の賠償命令がなされるということになりますと、最高裁判所での上告審ということになりますが、最高裁が和解相当と考えれば、高裁への差し戻しになる可能性があると思います。最高裁でもいよいよ巨額の賠償命令がなされるということになりますと、旧経営陣としましては、最後の切り札として「自己破産」を申し立てるということになりましょうか。なぜ強制執行で自宅を取られるよりも、自己破産の方がいいかというと、破産管財人との間で“任意売却”についての話し合いができ、例えば旧経営陣の親族なりが当該自宅を買い取るというような合意を目指すことも可能かと思われるからです。強制執行による競売の場合、相手が破産管財人ではなく、訴訟提起した株主らですのでなかなか和解には乗ってこないと思われますので、その点でも自己破産の方が旧経営陣にとって有利かもしれません。ただ、破産となると金融資産も99万円を残してすべて破産管財人に取り上げられるので、金融資産が多い人は必ずしも自己破産がいいという訳でもないと思いますが。

 いずれにしても、東京電力の旧経営陣にとっては、何とか控訴審で逆転しないことには、原告株主もなかなか和解などに乗ってこないでしょうから、いばらの道が続くことになりましょう。
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