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安倍晋三の国葬問題

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[安倍晋三の国葬問題]2022.10.1

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 このコラムを書いている時点では、まだ安倍氏の国葬が行われていませんが、岸田首相が断行することを前提に書いています。今回の国葬については、岸田首相が勇み足をして速攻で決めてしまったせいか、安倍氏の暗殺後旧統一教会問題が噴出以来、国葬反対の意見が賛成を上回る状態にまでなってきました。反対派の理由は、多額の国費を使うことに対する反対の意見とともに、そもそも安倍氏が国葬されることに値するだけの業績があるのかという意見です。その意見には、国葬についてのルールが定められていないのに、安倍氏を国葬扱いにすることが問題という論点も含まれています。そこで、歴代の国葬にて祭られた人々について考察してみたいと思います。

 明治維新後国葬について明文規定なく実施されてきたのですが、まず、1926年(大正15年)10月21日に国葬令(大正15年勅令第324号)が公布され、ここに至り、国葬の規定が明文化されました。同勅令の中で、天皇・太皇太后・皇太后・皇后の葬儀は、特に「大喪儀」といい、国葬とされました(第1条)。また、7歳以上で薨去した皇太子、皇太孫、皇太子妃、皇太孫妃及び摂政たる皇族の葬儀は全て国葬とされ(第2条)。皇族以外の一般人については、「国家に偉功ある者」に対し、天皇の「特旨」により国葬を賜うことができるとされました(第3条)。しかしながら、「国家に偉功ある者」の定義、および「特旨」の手続については具体的な基準が記載されていません。

 そこで、国葬令が公布されるまでの被国葬者についてみてみますと、大久保利通、岩倉具視、三条実美、伊藤博文という明治維新の元勲たち、島津久光、毛利元徳、島津忠義という薩長のお殿様、大山巌、山縣有朋という元帥と分類されます。すなわち、明治維新に功績のあったもの、日清日露戦争に功績のあったものということができます。(最後の一人の松方正義は、いずれにも分類されませんが被国葬者となりました。松方デフレという政策ミスはあったものの財政家としての功績を評価されたのでしょう。)

 国葬令が公布された後太平洋戦争終戦までの被国葬者は、東郷平八郎、西園寺公望、山本五十六ですが、東郷平八郎、山本五十六は元帥ということでの資格者、西園寺公望は元老としての功績が評価されたものと言えましょうか。整理しますと、皇族以外の被国葬者は、「旧・薩長藩主」「太政官制における大臣経験者」「首相経験者」「元帥」のいずれかに該当するということになります。このうち首相経験者はいずれも元老であり、複数の組閣経験を持つほか、存命中に最高位の勲章である大勲位菊花章頸飾を受章していることになります。

 太平洋戦争終戦後は「国葬令」の効力が廃止されましたので、明文での国葬に関わる根拠がなくなりましたが、天皇・皇后以外で国葬が行われたのは、1967年(昭和42年)10月20日に死去した元内閣総理大臣の吉田茂のみです。旧・国葬令にあてはめてみますと「旧・薩長藩主」「太政官制における大臣経験者」「首相経験者」「元帥」のうち、「首相経験者」で「大勲位菊花章頸飾」を受章しているという資格に該当することになり、何よりもマッカーサーと闘い、戦後処理を行うサンフランシスコ会議を成立させた功績は、やはり国葬に該当すると言えるでしょう。

 さて、翻って安倍晋三氏は、被国葬者に値すると言えるでしょうか。今までの例でいえば、「首相経験者」は、「大勲位菊花章頸飾」を受章していることでした。戦後に「大勲位菊花章頸飾」を存命中に受章しているのは、吉田茂、佐藤栄作、中曽根康弘の三人です。吉田茂は上述のとおり、被国葬者となりましたが、1975年(昭和50年)に死去した佐藤栄作は、葬儀は「自民党、国民有志による国民葬」として行われ、中曽根康弘も、主催者を内閣と自由民主党総裁とする合同葬儀として行われており、国葬とはなっておりません。佐藤栄作は、何よりも沖縄返還を成し遂げ、ノーベル平和賞を受賞しており、首相在任期間も安倍晋三に負けず劣らず長期間だったにもかかわらず、国葬とはなっていません。中曽根康弘も、国鉄民営化を成し遂げ、ロン・ヤス関係は、シンゾウ・ドナルド関係にも負けず濃密なものでしたが、国葬とはなりませんでした。安倍晋三氏の功績は何だったと言えるでしょうか?突然の銃撃死だったので、「大勲位菊花章頸飾」を受章できなかったという意見もあるかもしれませんが、やはり国葬を受けるには資格として不足ではないかと言わざるを得ないと思います。岸田首相は、勇み足をせず、国会にて国葬を行うかの議論、旧国葬令における「国家に偉功ある者」の定義、および「特旨」の手続をよく議論すべきだったと思います。


★勅令第三百二十四號
 第一條 大喪儀ハ國喪トス
 第二條 皇太子皇太子妃皇太孫皇太孫妃及攝政タル親王内親王王女王ノ喪儀ハ國葬トス但シ皇太子皇太孫七歳未滿ノ殤ナルトキハ此ノ限ニ在ラス
 第三條 國家ニ偉勳アル者薨去又ハ死亡シタルトキハ特旨ニ依リ國葬ヲ賜フコトアルヘシ前項ノ特旨ハ勅書ヲ以テ内閣總理大臣之ヲ公告ス
 第四條 皇族ニ非サル者國葬ノ場合ニ於テハ喪儀ヲ行フ當日廢朝シ國民喪ヲ服ス
 第五條 皇族ニ非サル者國葬ノ場合ニ於テハ喪儀ノ式ハ内閣總理大臣勅裁ヲ經テ之ヲ定厶
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