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ヘッドハンティング先での秘密漏洩

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[ヘッドハンティング先での秘密漏洩]2022.12.1

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 来年のNHK大河ドラマは「どうする家康」が放映されることとなり、ジャニーズの松本潤が徳川家康役を演じるとのことです。若い松本潤が主役を演じるので、たぶん徳川家康の今川家に人質となっていた青年期から壮年期(関ヶ原あたりまでか?)をドラマとして演じるのだと思います。確かに、桶狭間の戦い、三方ヶ原の戦い、本能寺の変、秀吉への臣属、関ケ原の戦いと家康の人生は「どうする?」の連続だったので結構面白いドラマになりそうです。
 さて、徳川家康の部下と言えば徳川四天王と言われる酒井忠次・本多忠勝・榊原康政・井伊直政が有名ですが、四天王に匹敵する重要人物として石川数正がいます。石川数正は、家康が今川家の人質だった時代からの家来であり、数々の軍功を上げてきた人物なのですが、何故に四天王と同じ扱いをされないかというと、小牧長久手の戦いの後、石川数正は何と敵であった豊臣秀吉にスカウトされて豊臣家の武将となってしまったからです。鞍替えした理由は色々と言われていますが、何といっても四天王と同レベルの徳川家重要幹部のヘッドハンティングですから、徳川家内部における動揺は大きく、石川数正は徳川家の軍事的機密を知り尽くしていたため、家康は何と三河以来の軍制を武田流に改めることに余儀なくされたというものでした。それほど、組織の幹部がライバル組織にヘッドハンティングされるということは、引き抜かれた元としては大打撃となるということです。ちなみに、あれほど石川数正を欲しがっていたくせに豊臣秀吉は、豊臣家に来たら来たであまり厚遇しなかったということらしいです。

 さて、少し前に回転ずし大手の「かっぱ寿司」を運営するカッパ・クリエイトの田辺公己社長が、転職前に在籍していた「はま寿司」の仕入れ情報を不正に持ち出した疑いがあり、警視庁は不正競争防止法違反の疑いで田辺社長を逮捕したというニュースがありました。田辺社長は2020年に、はま寿司の取締役から同社に転職し翌年、社長に就任していたものです。田辺社長が持ち出したとされるデータとは、すしの原材料となる魚介類の仕入れ値や取引先などのリストとのことで、これらがライバルに知られてしまえばコスト面でライバルが有利になる可能性が高いと言われています。
不正競争防止法は、不正に営業秘密を持ち出すことを禁止し、違反すると民事上の賠償責任のみならず、刑事上の罰則も加えられることとなります。営業秘密に該当するには、@秘密であることが従業員に明らかな形で管理されている「秘密管理性」、A事業に有用な情報である「有用性」、B保有者の管理下以外では一般的に入手することができない状態にある「非公知性」が要件とされていますが、田辺社長の場合は、はま寿司の仕入れ値とか取引先は幹部社員しかアクセスができなかったであろうし、また当然はま寿司の事業に有用な情報であり、一般的に入手できなかったものであることから“営業秘密”であると認定されたものと言えましょう。

 実際、企業の情報漏洩の多くが中途退職者による情報の持ち出しであり、グローバル的にも営業秘密保護の流れは強く、厳罰化が進んでいます。米国では、研究者などが元の企業で研究して収集していたデータを、転職先の企業の研究開発で利用したことについて刑事責任を問われたケースがありました。しかしながら、営業秘密の持ち出しということについての線引きはなかなか難しいのではないでしょうか。田辺社長の場合でも取引先リストの持ち出しが問題となっていましたが、営業担当の取締役クラスであればそれこそほとんどの取引先が頭の中に入っているでしょうから、単に取引先データを紙やUSBメモリーに落とし込んだか否かで処罰されるかどうかが決まるというのは何となく違和感があります。仕入れ価格であっても仕入れ担当重役であれば、鮭の1本、マグロの1本の価格まで頭の中に入っているでしょう。ヘッドハンティングする方の企業でも、全く元の企業の営業秘密など興味なく、その人の能力だけほしいとは言い切れないと思います。従業員・取締役の就業の流動性と、営業秘密のセキュリティの二律背反が今後問題となっていくのではないかと思われます。
石川数正のヘッドハンティングに対して、システムを全て入れ替えてまで営業秘密の漏洩を守ろうとした徳川家康ですが、石川数正の持ち込んだ膨大な“徳川家”データを生かしきれなかった豊臣秀吉との対比でみるといかに情報セキュリティが戦国時代からの問題であったかが少しはわかるような気がします。
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