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ルフィはどのように処罰されるのか?

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[ルフィはどのように処罰されるのか?]2023.3.1

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 特殊詐欺事件の主犯格とみられる渡邉祐樹容疑者ら4人が、潜伏先のフィリピンから日本に強制送還されました。どうも、日本で犯罪を犯した者は、フィリピンに逃避行するというのが定番のようで、そういえば、何年か前に目黒の土地をめぐって地面師事件が起きた時、その主犯格もフィリピンに逃げたのですが、結局、日本に強制送還されてたことを思い出しました。確かにフィリピンと日本の間には、犯罪人引き渡し条約が締結されていませんし、捜査共助という制度もありますが、フィリピンとは条約を締結していないのでこれも使えません。結局フィリピン側の“好意”で強制送還してもらい、日本に送り返される飛行機の中で逮捕するというシステムを取らざるを得ないことから、犯罪者としても逃亡先として適しているのかもしれません。さらに言えば、今回の渡邊容疑者が収監されていたピクタン収容所というのは地獄の沙汰も金次第の収容所で、看守に金を握らせればスマフォも手に入るし、大部屋から特別室に替えてもらえるし、外に出前もできるといった特別待遇ができるというのも驚きです。いい暮らしをしていた渡邉容疑者らですが、結局はフィリピン側の“好意”で日本に強制送還され、公海上で4人とも逮捕されたということです。

 さて、ルフィかどうかともかく渡邉容疑者らが起こした犯罪が認定され、裁判にて裁かれるとなると、どの程度の刑罰を受けることになるのでしょうか。まず、特殊詐欺事件の主犯格のようですから、まずは詐欺罪で処罰されることとなりましょうか。刑法246条1項には、「人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。」とありますが、渡邉容疑者らは、1件や2件の詐欺事件ではなく多くの詐欺事件に関与していますので、刑法45条において「確定裁判を経ていない二個以上の罪を併合罪とする。ある罪について禁錮以上の刑に処する確定裁判があったときは、その罪とその裁判が確定する前に犯した罪とに限り、併合罪とする。」と併合罪の規定があり、刑法47条において「併合罪のうちの二個以上の罪について有期の懲役又は禁錮に処するときは、その最も重い罪について定めた刑の長期にその二分の一を加えたものを長期とする。ただし、それぞれの罪について定めた刑の長期の合計を超えることはできない。」と定められていますので、マックスで15年という刑罰が与えられることとなります。

 しかしながら、今回のルフィたちの容疑は、特殊詐欺のみならず、日本全国で犯された強盗事件、特に狛江市の資産家老女強盗殺人事件に対する責任追及が本筋です。問題は、日本での強盗事件をフィリピンからコントロールしたルフィ(かもしれない渡邉容疑者)は、強盗の実行行為を行っていないわけですから、果たして共同正犯としての罪を問うことができるかです。刑法60条には、「二人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする。」と規定されていますが、強盗を犯す指示をフィリピンから送っていたルフィが“共同して犯罪を実行した”といえるかです。
 この点、複数人の共謀に基づいて1人ないし複数人が犯罪を実行した場合、謀議に参加した全員が共同正犯として処罰されるという共謀共同正犯という概念で実務上処罰されることとなっています。わかりやすいのが、暴力団の親分が子分たちと共謀して、対立暴力団の親分を殺すという“共謀”が成立して、子分たちが実行役となった場合、手を出さなかった親分も共同正犯として処罰されるというものです。従って、ルフィと実行犯らの間に「人を殺してでも金をとってこい」という共謀が電話での指示などを通じて成立していたとすると、ルフィも強盗殺人罪の共同正犯ということになるわけです。強盗殺人罪は、刑法240条では、「強盗が、人を負傷させたときは無期又は6年以上の懲役に処し、死亡させたときは死刑又は無期懲役に処する。」と規定されており、死刑または無期懲役と非常の刑が重い犯罪です。ルフィも詐欺罪で15年刑務所暮らしするか、死刑か、現在ではなかなか仮釈放が認められない終身刑化した無期懲役になるかでは大違いということになります。

 ここで、ルフィと実行犯との間に強盗しか共謀が成立していなかった場合はどうなるでしょうか。例えば、「お前たち、たたきをやって来い。ただし、殺してはいかんぞ。」という制限された範囲で共謀が成立していた場合などです。この場合で人を傷害することなく強盗を実行したとすると、強盗の共謀共同正犯ということになるので、刑法236条で「暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、強盗の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。」と規定されているので、併合罪となってもマックス30年ということになり、ルフィたちも生きている間に娑婆に戻れる可能性があります。
 しかしながら、強盗を行った結果、怪我をさせるつもりはなかった、殺すつもりはなかったとしても傷害、死亡の結果を生じさせてしまった場合はどうなるのでしょうか。この場合は、犯罪行為をなした際、予想していた以上の悪く重い結果を引き起こしてしまった場合に、その悪く重い結果についても罪に問い、より重く科刑するという結果的加重犯ということになります。すなわち、刑法240条では、「強盗が、人を負傷させたときは無期または六年以上の懲役に処し、死亡させたときは死刑または無期懲役に処する。」と規定されており、最初から殺すつもりの強盗殺人でなくても結果的に死亡に至らしめたときは、強盗致死罪として死刑または無期懲役になってしまうのです。ここで、ルフィとしての反論は、「俺は強盗まではしてもいいが、傷害や殺しまでしてもいいとは言っていないので、強盗の範囲でしか共謀共同正犯にならない。」と言うかもしれませんが、実務上では結果的加重犯については、強盗の範囲でしか共謀が成立していなくても結果として致死となった場合は、共謀者全員が強盗致死の責任を負うということになっています。そうなると、やはり死刑か無期懲役かということになってしまうのです。警察としては、何としてもルフィ(が誰かまず特定するということが大変かと思いますが)と実行犯との共謀を立証していくことが重要となるので、スマフォなどの解析がどこまでできるのかにかかってくるかと思われます。
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