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[住宅紛争調停について]2023.7.1

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 前回までのコラムで、私が簡易裁判所の調停委員及び東京弁護士会の紛議調停委員を務めていることを紹介しました。実は、その二つの調停委員に加え、東京弁護士会の住宅紛争審査会の調停委員にも従事しています。東京弁護士会の住宅紛争審査会というのは、平成12年4月に施行された「住宅の品質確保の推進等に関する法律(品確法)」に基づき、国土交通大臣の指定を受けた裁判外紛争処理機関であり、弁護士が建築士などの協力を得て、当事者間の話合いによる紛争解決を目指して、あっせん、調停及び仲裁を行なっているものです。簡単に言うと、請負で建てた住宅(注文住宅)もしくは売買で購入した住宅(建売住宅)に瑕疵があった場合に、注文者と請負人、及び売主と買主間の問題解決のために調停などを行っている裁判所以外で行われる紛争処理手続(ADR)です。

 多くの場合は住宅の注文者・買主の側から、注文した/買った住宅に存在する瑕疵(今までに担当した案件では、住宅が不同沈下して床が傾いているとか、2階の天井から雨漏りがするとか品確法の適用を受ける瑕疵が目立ちます。)について、修理をしてほしい、もしくは損害を賠償してほしいので、請負人/売主との間の交渉の取り持ちを住宅紛争調停手続で行ってほしいという申立てがなされます。
 そこで、住宅紛争審査会の事務局は、同会に登録している調停委員リストの中から、弁護士調停委員を2名、建築士調停委員を1名選出し、調停委員会を構成します。調停委員会のうち1名が、簡易裁判所で言う調停主任となり(すなわち裁判長役となり)、調停手続を進めていくこととなります。実際の手続の進め方は、簡易裁判所の調停手続、及び東京弁護士会の紛議調停手続と変わりはなく、両者の言い分をよく聞いた上で、法律のあてはめをして、調停委員会として“妥当な”解決の指針を示して、申立人と相手方双方で受け入れられる解決の指針であれば、調停条項案を作成し、両者が納得すれば調停が成立するというものです。

 住宅紛争調停手続でも、簡易裁判所の調停手続及び東京弁護士会の紛議調停手続と同様に、相手方当事者に調停手続で問題解決しようという意思がなければ、全く調停手続を進行させることができませんので、調停初日で調停不成立ということで終了してしまった案件も結構ありました。しかし、両当事者にこの調停手続で問題解決しようという意思が見られる場合には、意外と調停が成立することが多かったと思います。しかしながら、両当事者に任せっぱなしであると全く合意に向けて進みませんので、両当事者に少しでも調停手続で解決しようという意思が見られる場合は、調停委員がある程度リードしていくことが重要と思います。リードするというのは、事実整理をする際には、ある程度調停委員会として突っ込んだ資料提出をさせるとか、事実整理をした後は、ある程度明確に法的な問題点の整理をして、争点がどこにあるかを明確にすることが重要であり、紛争解決案についても調停委員会が丁寧な調整を試みることが重要だと思います。やはり、そのように調停委員会が丁寧な関与をした事案については、調停が成立することが多いかと思う次第です。

 私が調停委員として関与したのは多くは、裁判長以外の役でしたが、この度、初めて裁判長役の調停手続を経験しました。注文した建物に瑕疵があるという事案ですが、既に品確法における時効の10年を経過している案件でしたので、請負人の方が「時効消滅している」と言いさえすれば、注文者の請求が認められないことになったわけですが、本事案では請負人の方も時効消滅しているにも拘らず、請負人の会社の看板に掛けて解決しようという意思が見られて、最終的には瑕疵部分のうち、請負人に責任が認められる部分については金銭解決するということで調停が成立しました。この案件も、両当事者が調停手続を利用して問題解決しようという意思があったことが調停成立につながったのではないかと、最初の裁判官役をこなした私としては思う次第です。
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