［水原一平の過ち］2024.5.1

　プロ野球西鉄ライオンズの元エース、池永正明が２０２２年９月２６日、がんのため死去したというニュースが２年ほど前にありました。池永選手は、高校卒業後に西鉄ライオンズへ入団し、５年間で９９勝を挙げたのですが、１９７０年の「黒い霧事件」に関与し、八百長が認定され、永易将之、森安敏明らと共にプロ野球から永久追放処分を受けた選手でした。八百長による永久追放のきっかけは、同僚であった永易の口から池永を含む西鉄の所属選手６名の実名が公表されたことに始まります。西鉄球団が事情聴取したところ、永易の後述によって名が浮上した田中選手がオートレースの八百長で東京地方検察庁特別捜査部に逮捕され、その取り調べの過程において池永選手に対して現金１００万円で八百長を依頼していたと供述したことによって、一貫して金銭授受による八百長を否定していた池永選手の立場は悪くなりました。池永選手自身も田中選手から１００万円をもらったことを認めたのですが、「絶対に八百長などしていない。先輩である田中から『預かってくれ』と言われた金を押入れに仕舞っていただけだ」と主張し続けました。しかし日本野球機構は池永選手らを最も重い「永久追放処分」とする決定をしました。その理由は、池永選手が依頼金１００万円を受け取って返さなかったことが、八百長を承諾したと見なされたなどが、当時の野球規約第３５５条に違反するとされたのです。池永選手は、将来を有望視されていただけに、当時は衝撃的なニュースとして報道されていました。

　果たして本当に池永選手が八百長に関与していたのかは、今や亡くなった池永選手のみぞ知るところになったわけですが、本当に八百長に関与していたとすれば、どのような法的責任を負うことになるのでしょうか？日本においては、とばく罪（刑法１８５条）という犯罪類型があり、常習性がある場合は常習とばく罪（刑法１８６条）で処罰されることとなっています。選手が八百長行為をして、胴元が行う賭博行為・常習賭博行為を助けるということになりますと、八百長選手もとばく罪・常習とばく罪の共同正犯もしくは従犯ということで処罰されることとなります。また、競馬・競輪などの公共ギャンブルにおいて八百長をした場合は、それぞれの特別法で八百長行為自体を犯罪類型化していますので、それで処罰されるということになります。池永選手は、どうやら警察・検察の捜査を受けたようですが、起訴猶予もしくは不起訴処分になったようでとばく罪で立件はされなかったようです。

　さて、水原一平の件です。今回の嫌疑はアメリカでの犯罪に関するものですが、アメリカ刑事法に詳しくないので、日本国内であればどのように処罰されるかを検討してみたいと思います。まず、彼自身が６億円をも“すった”賭け行為自体について、とばく罪・常習とばく罪が適用されることになりましょう。さらに、水原一平が胴元であるバウアー氏に、大谷選手のコンディションや登板可能性などを漏洩していたとしていたとすると、バウアー氏のとばく罪の共同正犯もしくは従犯も成立することとなりましょう。何よりも、水原一平は、大谷選手の話によると、大谷選手の口座から勝手に胴元に送金をしたということですから、こちらについても犯罪が成立することとなります。どういう犯罪になるかというと、まず水原一平が大谷選手から銀行口座の管理を任されていたとすると、業務上占有する他人の物を横領したということで、業務上横領罪が成立することになります（刑法第２５３条）。もし、水原一平が大谷選手から管理を委託されていない銀行口座から、何らかの方法で暗証番号などを入手して、その暗証番号を使って胴元に送金したとすると、（ニュースで窃盗という報道がありましたが）電子計算機使用詐欺罪が成立することとなります。電子計算機使用詐欺罪とは、銀行口座の預金など財産権の得喪・変更に係る暗証番号をインプットすることにより真の権利者でない者が不実の電磁的記録を作る等の手段により、第三者に銀行送金するなど財産上不法の利益を得ることを内容とするものです（刑法２４６条の２）。そうすると、とばく罪と業務上横領または電子計算機使用詐欺罪との“併合罪”となりますので、МＡＸ１５年の有期懲役刑となる可能性があります。６億円も“抜いて”いるので、執行猶予ということはあり得ないでしょう。相当期間刑務所に行くこととなりましょう。

　今回の水原事件で、大谷選手も相当のショックを受けていることと思いますが、それでも試合で結果を出しているというのは、（良い意味で）相当メンタルが強いということなのでしょう。大谷選手には、１０００億円のうちの６億円ですから、痛いですが勉強代と割り切って今後もますます活躍してもらいたいと思います。