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俺たちの箱根駅伝

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[俺たちの箱根駅伝]2024.7.1

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 箱根駅伝(「箱根駅伝」という名前自体は、読売新聞東京本社の登録商標とのこと。)は、正式には東京箱根間往復大学駅伝競走といい、毎年1月2日と3日の2日間で開催される関東地方の大学駅伝競技会(なんと地方大会にすぎない!)です。関東学生陸上競技連盟(関東学連)が主催し、読売新聞社が共催する形式となっています。ご承知のとおり、往路は東京から箱根まで、復路は箱根から東京までの全10区間217.1kmとなっています。テレビ中継も朝早くから昼過ぎまでの長時間にわたるので、全部を視聴するということはありませんが、復路の9区から最終10区への鶴見中継所での襷リレーはできる限り毎年見ております。箱根駅伝では、一般道路を通行規制して運営しているので、出来る限りその影響を少なくするため、復路ではトップを走るチームと20分以上の差がついたチームは、中継所において繰り上げスタートをしなくてはならなくなります。すなわち、自チームのタスキがつながらなくなるということになるのです。復路の鶴見中継所は、最後の中継所なのでトップとの差が大きく開くことになることで、繰り上げスタートが発生します。毎年、鶴見中継所では、9区のランナーが繰り上げスタートの時間までに間に合わず、10区のランナーが自チームのタスキを受けることなく、一斉にスタートすることになります。この繰り上げスタートを考えたのは、関東学連なのか読売新聞社なのか、非常にドラマをアピールする見せ場となっています。特に、9区の最後は、中継所への側道入口からリレーゾーンまで約160メートルの直線区間となっており、むごい時には9区のランナーの目の前で10区のランナーが繰り上げスタートしてしまい、タスキをつなぐことができず、9区のランナーが号泣するという場面が毎年のように見られ、中継の日本テレビもここをお涙頂戴の売り物にしているのではないかと思う次第です。

 毎年、下位チームが鶴見中継所での繰り上げスタートの憂き目にあっているわけですが、その常連に関東学連チームというのがあります。最初は、関東学連とは何ぞやと思っていたのですが、箱根駅伝は、前年の成績の10位までのチームは予選免除となるのですが、それ以下の成績のチームは、秋に予選会があり、そこで上位10位までに入らないと本戦には出られないというシステムになっており、惜しくも予選会に出られなかったチームの成績優秀者で“関東学連チーム”を急ごしらえで結成して、本戦の正式な成績としては残りませんが、あくまでオープン参加として本戦に出場することができるわけです。関東学連チームの監督は、予選会で惜しくも11位になったチームの監督が努めることになります。しかし、自分の大学が本戦に出られず、自分だけが箱根を走るという一種の後ろめたさや、正式な成績に残らない、すなわち区間賞を取る成績でもあくまで参考記録としかならない、急ごしらえのチームでチームとして連帯感が醸成されないことなどから、なかなか優秀なランナーがいても本戦でのいい成績につながりません。そのあたりの選手たちの葛藤を見事に描いたのが、池井戸潤の小説「俺たちの箱根駅伝」です。作者が巧妙なのは、全て架空の大学名とすると読んでいる方としては実在感を感じない空論の話になるところ、作品の主人公、関係者の大学は架空の名にしながらも、参加チームとして青山学院大学とか駒澤大学とか実在のチーム名を出しているので、非常に臨場感を感じる仕上がりになっています。作品においては、関東学連チームの話と、中継のテレビ局(大日テレビとなっていますが、言わずと知れた日本テレビですが)の苦労話が並行して話が進んでいくという体裁になっています。関東学連チームの監督となった甲斐真人ですが、学生時代は名選手だったものの、とある商社に就職してからは陸上競技からは縁遠かったところ、予選会11位の大学の監督にスカウトされて、すなわち関東学連チームの監督に就任するというところから話が始まります。詳しい話はネタバレになりますので述べませんが、甲斐監督は目的意識がバラバラだった学連チームの選手たちをまとめ上げて、本選で好成績の結果を出すというストーリーです。

 この小説の中でも紹介されていますが、最近の関東学連チームは成績が低迷し、100回大会では学連チームを組むこともなかったので、学連チーム不要論も根強いのですが、学連チームがなんと全体4位の成績をたたき出した大会があります。2008年の大会です。この時の学連選抜〈この大会での呼称です〉の監督は、予選会11、すなわち時点で本選に行けなかった大学の監督であった青山学院大学の監督、そうあの原晋監督でした。裏話を伺うと、原監督は、学連選抜の各選手に「一体何のために走るのか」を考えさせて、一つのチームにまとめて本選で好成績の結果を出したものでした。この時のチーム作りで自信を持ったのでしょう、それからの青山学院大学は箱根駅伝の常勝校となったことは公知の事実です。池井戸潤の今回の小説の甲斐真人監督も、原晋監督も会社勤めの経験があることなど、原監督をモデルにした部分は多分にあるかと思います。しかしながら、改めて原監督が名将であることは、学連選抜を4位までにしたことからも言えるかと思います。学連チーム問題は、この小説の中でも批判的な声が多いと描かれていますが、一人でも多くの選手に箱根路を走る機会を与えることは、日本の長距離陸上界のためになることだと思いますし、さらに言えば、公式記録として認めてあげることが学連参加の選手たちのモチベーションアップにつながるものではないでしょうか。このあたり、関東学連でも更なる議論を尽くして頂きたいと思う次第です。
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