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船井電機の倒産劇

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[船井電機の倒産劇]2024.12.1

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 船井電機と言えば、1951年にミシンの卸問屋からスタートし1990年代から2000年代にかけて、その商品であるビデオデッキは全米シェアの5割を超え、テレビデオは6割を超え、DVDプレイヤーや液晶テレビでも大きなシェアを取っていたほど、アメリカでは有名なブランドでした。そのビジネスモデルは、中国の委託工場で大量生産した家電商品を、アメリカのスーパーやディスカウントストアで激安販売するというものでした。船井電機は、自社ではなく他社ブランドの製品を製造するОEМによるビジネスモデルにも強く、その躍進のおかげで、船井電機の創業者である船井哲良氏は、日本人で初めて米フォーブスの長者番付に掲載されたものです。

 しかしながら、2010年代に入ってサムスン、LGなどの韓国・中国勢に押されるようになったので、他社のOEMだけでなくFUNAIという自社ブランドにても展開をして、2017年からはヤマダ電機とタッグを組んで挽回を図ったのですが奏功しませんでした。

 会社経営がじり貧となった2021年、とある出版社が船井電機を買収し、上田智一氏なる人物が社長に就任しました。上田氏は外資系コンサル出身との触れ込みで、創業者の“お友達”だった人物が連れてきた人だそうです。この買収については、船井電機にとってリスクの高い買収だったのではないかとも言われています。その後、船井電機は、上場廃止をしており、市場から撤退しました。

 しかし、企業買収後も船井電機の業績は回復せず、業績不振を挽回するためか、2023年4月に新たな事業分野に活路を見いだすべく脱毛サロンチェーンのミュゼプラチナムを買収して、完全子会社化しました。その前後から急激に経営の雲行きが怪しくなっていったというのです。しかし、脱毛サロンチェーンと電気屋とでは全くのシナジー効果が得るはずもなく、しかもミュゼプラチナムは、買収以前に一度経営破綻している会社であり、結局、船井電機としては手に負えなくなったのか、ミュゼプラチナムは子会社化から1年後の2024年3月に売却されてしまいました。

 問題なのは、ミュゼプラチナムの買収から再売却までの短期間に多額の資金が流出したことです。ミュゼプラチナム買収前の2023年3月末に船井電機には現預金が221億9600万円もあったのですが、ミュゼプラチナムを売却して、2024年10月25日の従業員給与1億8000万円を出金すると運転資金が1000万円を下回る状態になってしまうので、自己破産に追い込まれてしまったのでした。実に、たった1年半で221億円もあった現預金が1000万円にまで減って、すなわち外部流出してしまったのです。買収後に、ミュゼプラチナムに巨額の未払い広告費が発覚し、親会社として支払保証をしていた船井電機が多額の債務肩代わりをせざるを得ず、資金流失を加速させたともいわれています。

 船井電機が破綻する少し前の2024年5月、“素性の知れない”4人が取締役に就任します。東京商工リサーチによりますと、この4人が船井電機と何か関係がある人物なのかがよくわからず、船井電機の社員にとってもどんな人物でなぜ役員になったのか全くわからないとのことです。さらには、2024年9月に上田社長と問題の取締役らが退任しました。退任の理由は明かされていません。

 何か月か前のNHKの番組で、“М&Aで会社をつぶされた”という特集番組をみました。どういうことかというと、ある会社が経営不振に陥り、大株主でもある経営者は、会社を売却してこの危機を乗り切ろうとして、М&A仲介会社に買い手を探してもらったところ、とある投資会社が会社を買い取るという話が出てきて、経営者としてはこれで一安心と会社の株式をほぼ無償に近い売買代金で売却してしまいました。その会社にはそれなりの現預金があったのですが、財務諸表上は債務超過委の会社なのでゼロに近い評価しか受けられないというものでした。株式を売却後に、経営者が負っていた銀行に対する連帯保証を新たな経営者に書き換えてもらうという条件だったのですが、その約束は守られず、それどころか会社の実印・銀行印を引き渡した翌日から、新経営者は会社の現預金を引き出し始め、あっという間にそれなりにあった現預金は底をついて、結局、その会社は支払不能となり破産してしまったというものです。元の経営者には、銀行に対する連帯保証が残ったままなので、もとの経営者も破産せざるを得ない状況となってしまったというものです。買収した会社や新たに入ってきた経営者らとは、連絡がつかず音信不通の状況です。

 今回の船井電機の破産劇を見るにつけ、NHKでやっていた“М&Aで会社をつぶされた”という事案とそっくりなことに驚きます。経営不振となった、それでもそれなりに現預金を持っている船井電機に目を付けた連中が、経営者らの持ち株を安く買い取り、“五月蠅い”市場規制を受けないようにと上場を廃止して、得体のしれない脱毛サロンに対する訳の分からない広告費なる債務を作り上げて、それに対する弁済と称して、船井電機の虎の子の現預金をほとんどすべて吸い上げていき、会社は破産した、乗り込んできた役員もすべて辞任して逃げて行ったというところがよく似ていますね。もちろん、船井電機に乗り込んできた経営者らが、違法な取引で会社財産を散逸させたとすれば特別背任罪に問われることとなるわけですが、果たして、船井電機の破産管財人はそこまでの責任追及ができるのか、お手並み拝見といったところでしょうか。ただ流出した現預金は戻ってこないでしょうね。70年もの歴史を持つ会社の末路としては悲しいものがあります。
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