賃料減額や不動産関係の弁護士なら神田元経営法律事務所へ | ||
TEL:03-6418-8011 平日 9:00〜17:00 |
||
紀州のドン・ファン事件 |
TOP > 紀州のドン・ファン事件
| |||
|
[紀州のドン・ファン事件]2025.1.1
О・J・シンプソンといえば、1970年代を代表するNFLのフットボール選手でした。大学時代にハイズマン・トロフィーを受賞し、鳴り物入りでプロ入りし、1973年にはМVPも受賞したほど、ランニング・バックとして活躍しました。引退後は、俳優や、コメンテーターでも名を博しました。ところが、シンプソンは1994年、元妻のニコール・ブラウンとその友人のロナルド・ゴールドマンを殺したという容疑で逮捕され、起訴されました。シンプソンが逮捕されるときのパトロールカーとのカーチェイスなど、まさに劇場型の犯罪ということで、アメリカのみならず、日本でもたいそうな騒ぎとなったことが記憶されます。
裁判の詳細を話し出すと膨大な量になりますので、結論から言えば、第1級殺人罪の被告人として、シンプソンは、ロサンゼルス郡のカリフォルニア州最高裁判所で陪審制度による刑事裁判を受け、1995年1月25日から行われ、同年10月2日にシンプソンに対し、無罪判決が宣告されたというものです。アメリカの場合、第1審で無罪判決が出た場合、検察側は控訴できずに無罪が確定することになりますので、シンプソンも“刑事裁判”としては無罪が確定しましたが、被害者の遺族らがシンプソンに対する“民事裁判”による損害賠償訴訟を提起し、何と、民事裁判ではシンプソンの殺人が認定され、損害賠償責任が認められたというものです。 今回、紀州のドン・ファン事件という被害者の元妻に対する刑事事件の訴訟において、元妻に対し、無罪判決が言い渡されました。和歌山地方裁判所においては、裁判員裁判により行われましたが、裁判員と裁判官との評議により、無罪という決定がなされたことになります。マスコミで報道されている事件の概要によれば、元妻が犯人であることの間接証拠は山ほどあるものの、元妻が“やった”ことの直接証拠がないために、判決は、「第三者による他殺の可能性や自殺の可能性はないといえるが、野崎さんが覚醒剤を誤って過剰摂取した可能性はないとは言い切れない。被告が殺害したとするには合理的な疑いが残る。」として無罪としたものです。この「被告が殺害したとするには合理的な疑いが残る。」という部分が刑事訴訟においては重要で、刑事訴訟法336条が「被告事件が罪とならないとき、又は被告事件について犯罪の証明がないときは、判決で無罪の言渡をしなければならない」と定めていることから“疑わしきは罰せず”という原則が導かれています。すなわち、刑事被告人を犯罪者とするには、検察側は、その刑事被告人が犯罪を犯したことに合理的な疑いがないほどに立証しなければならないというものです。英米法では、"beyond reasonable doubt"(合理的な疑いを越えた(立証))といいます。これはどの程度の立証かと数字で表すのは難しいですが、あえて言えば80−90%以上の裁判官(もしくは陪審員、裁判員の)心証を得ないと有罪に持ち込めないというものです。 シンプソン事件において、合理的な疑いを超える検察側の立証ができなかった大きなエポック・メイキングなこととして、検察側が被害者の血液が付着した手袋が証拠として提出したのですが、法廷で弁護人がシンプソンに実際にはめてみるように指示したところ、手袋が小さくて手が入らなかったということが挙げられます。このことをきっかけに、陪審員の心証としては、シンプソンが殺人を犯したことにつき、“合理的な疑い”を持ったまま評議に入り、結局、無罪評決ということになったのだと喧伝されていました。紀州のドン・ファン事件でも、証人尋問で覚せい剤の売人が2人証人として出てきて、一人は「覚せい剤を売った」と証言しましたが、もう一人は「売ったのは角砂糖だった」と証言したことが、裁判員らが元妻の殺人を犯したことについて“合理的な疑い”を越えられなかったので、結局無罪の判決をしたのではないかと思われます。いわば、検察側の作戦ミスであり、何でそんな“危ない”証言をするような売人を証人として法廷に出したのか、シンプソンの手袋と同じ役割を果たしてしまっています。同じ和歌山県で起きた毒入りカレー事件でも、直接証拠がなく、間接証拠だけで死刑判決を下したのですが、同じように検察のミスがあったならば、どのように結果が変わっていたかわからないと思った次第です。 では、今後、この紀州のドン・ファン事件はどうなるのでしょうか。シンプソン事件では、刑事訴訟では無罪となったものの、民事訴訟では殺人が認定されていますが、これは民事訴訟では、合理的な疑いを超える程度の立証まで必要なく、端的な言い方をすれば、裁判官は51%“ありうる”という程度の心証で事実認定できるということです。もっとあえて言えば、民事訴訟な“弁論の全趣旨”で事実認定できる、すなわち“疑わしきは責任あり”でも判決は書けるというものです。従い、紀州のドン・ファン事件でも、被害者の遺族が元妻に対して殺人による損害賠償請求訴訟を提起すれば、元妻の殺人が認定される可能性は十分にあるのではないかと推察されます。一方、検察側は結構きつい控訴審対策が必要となります。すなわち、刑事訴訟というのは、いわゆる事後審であり、控訴審において新証拠を提出するのは制限されており、第1審で提出した証拠で勝負しなければならないので、控訴審でも検察敗訴という可能性は十分にあります。最後に、シンプソンは無罪評決後どうなったかというと、窃盗事件を犯して10年近く服役して、今年2024年4月10日にがんのため、76歳で死亡しました。真実は結局墓場まで持って行ったということですかね。 |
企業法務全般 | コーポレート業務(事業継承) | 不動産関連業務 | セカンドオピニオン提供業務 経営理念 | 報酬体系 | 事務所概要 | 関連情報 | サイトマップ |
神田元経営法律事務所弁護士 神田 元 〒107-0062東京都港区南青山5-11-14H&M南青山EAST301号室TEL:03-6418-8011 FAX:03-6418-8012 |