賃料減額や不動産関係の弁護士なら神田元経営法律事務所へ
神田元経営法律事務所 TEL:03-6418-8011
平日 9:00〜17:00
お問い合わせ

地方自治体の独自課税(課税自主権)問題について

TOP > 地方自治体の独自課税(課税自主権)問題について

業務内容

神田元経営法律事務所
〒107-0062
東京都港区南青山5丁目11番14号
H&M南青山EAST301号室
地図はこちら

[地方自治体の独自課税(課税自主権)問題について]2013.5.1

シェア
 3月22日の新聞記事において「神奈川(県)の独自企業税違法」という記事を目にしました。地方税法では、企業が単年度において黒字決算となっても、過去に赤字が生じておれば、5年間に遡って当該赤字分と当期の黒字分を相殺して、法人事業税を減免するという規定をしています。法人税などでも出てくる「繰越欠損」と同様の問題です。ところが、神奈川県は「臨時特例企業税」という税を新設しまして、過去の繰越欠損分の控除を考慮せず、単年度の黒字額のみに着目して課税をするというものです。
 しかしながら、最高裁は、地方税法で5年間の欠損繰り越しを認めているのは、事業年度ごとに所得額が変動することから、法人の税負担をできる限り均等化し、公平な課税を行うための趣旨であるから、神奈川県の同条例による課税は違法と判断したのです。これにより、神奈川県は、1700社に635億円もの返還を余儀なくされ、神奈川県の財政に大打撃であると黒岩県知事が憤っていました。

 私がまだ給与所得者であったころ、同僚と住民税の話をしていて、住民税は税率を自由に変えることができるのかという議論になりました。当時私は世田谷区に住んでいましたが、千葉県某市に住んでいた同僚は、「私の住んでいる市は、人口が増えるものの地方税は税率が固定されているから、整備を必要とするインフラ整備の予算が税収の伸びにおっつかない。それに比べ、金持ちが多い(?)世田谷区は、税率が一定でも高所得者が多いし、何よりインフラも整備されているので、それならば、税率を下げるか、千葉県某市に回してほしい。」というようなことを愚痴っていました。そのときは、なるほど法律で決っているのだから、勝手に自治体が税率を変えてはいけない。それが許されるならば、夕張市のような財政破綻自治体が課税を強化して、住民税を負担しなければならない人は税率の安いところに逃げてしまい、益々財政が厳しくなるという「貧すれば鈍す」現象が加速してしまうと思っていました。(注:世田谷区が果たして裕福な自治体であったかどうかは検証していません。)

 しかしながら、平成12年4月に「分権一括法」という法律が制定され、地方自治体が法に定めのない「法定外税」を創設することにつき、総務大臣の許可制から、同意を要する協議制に変更されました(ということは、以前から法に定めのない地方税の創設も可能だったようで、核燃料税などが制定されています。)。また、地方税法で定めている税率よりも超過して課税することについても制限を緩和しており、逆に、税率の引き下げや、廃止などについては、総務大臣への協議・同意の手続すら不要としております。
 しかしながら、地方税法では、国税または他の地方税と課税標準を同じくし、かつ、住民の負担が著しく過重となるときは、総務大臣は同意できないと規定しています。とすると、先ほどの同僚と話をしていた時点からは、事情が大きく変化して、千葉県某市では課税を強化でき、裕福な自治体は、税率を引き下げることができることになりますが、実際には、せいぜい、均等割りの額を増額するか、固定資産税などを引き上げるということで実施しているのが実情です。

 今回の最高裁判決では、神奈川県の同条例を地方税法の趣旨を阻害するとまで言及していますが、確かに繰り欠を認めないという今回のいすゞ自動車の様な企業を再生する過程の企業においては、大いに再生を阻害する要因となります。
 しかし、神奈川県のように政令指定都市が横浜市、川崎市と2つだけだったのが、相模原市まで政令指定都市となってしまい、実質的に神奈川県知事の権限が及ぶのが湘南地域のみというのでは、湘南県と名称変更した方がいいくらいで、かような課税もしたくなるのももっともな話かもしれません。ただ、地方自治体の課税自主権の問題は、大きな視点でいえば、所詮、中央集権体制の中のパイの割り方の話に過ぎず、本当は、例えば道州制の導入のように、日本の統治機構のあり方それ自体の見直しが必要な時期が来ているのではないかと思う次第です。
シェア