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グーグル社に対する差止命令について−外国企業に対する強制執行

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[グーグル社に対する差止命令について−外国企業に対する強制執行]2013.6.1

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 平成25年4月15日に東京地方裁判所で、米国グーグル社に対して、グーグル検索における表示の差止めと日本人男性に対して慰謝料として30万円の賠償を命じる判決が出されました。どのような事件かというと、グーグル検索には、「サジェスト機能」というのがあり、例えば、ディズニーランドと入れると「ディズニーランド 混雑」とか、「ディズニーランド 待ち時間」とか出てきて、自分の知りたいことを先読みしてくれる機能があることはよくご存じだと思います。
 ところが、ある男性が自分の名前を検索に掛けると、「○○ 詐欺師」とか、「○○ 犯罪者」とかサジェストされてくる。そのサジェストされたHPを見ると、でたらめな誹謗中傷が出てくるというのです。もちろん、男性にとっては事実無根なことですから、日本グーグルに削除するように求めました。ところが、日本グーグルは、メインサーバーはアメリカ側にあるので、日本側では何ともしようがないという返事で、それではということで、男性は、米国グーグルを相手取り、東京地方裁判所に、当該男性の名誉毀損となるサジェスト機能のページの表示を停止するよう仮処分を申し立てて、平成24年3月に、東京地裁は、男性の言い分を認め、表示差止めの仮処分決定を出しました。

 仮処分というのは、本来訴訟をしている時間にどんどん権利が侵害されていくという状況において、“仮に”その権利侵害行為を差し止めるという処分をしてもらうというもので、例えば、隣地に建築基準法違反の建物の建築がどんどん工事が進み、自宅の日照権を侵害されそうだというときに、建築差し止めの仮処分を得るというようなケースなどがあります。仮処分だけでは暫定的な決定ですから、本来は、訴訟による判決を得なければ最終的な解決にならないというのが建前ですが、実際には仮処分が出されることで、もっと言うと仮処分の審理の中で最終的な解決が図れているケースがほとんどです。違法建築差止めのケースでいえば、仮処分の審理において、建築者側も裁判所に呼ばれますから、裁判官から、「どうやら、違反建築のようですから、このまま仮処分が出なかった場合でも、完成にまで至った場合は、最悪取り壊しになる可能性がありますよ。それならば、現時点で一部設計変更をしてもらい、合法な建物にしてはどうですか。」とそれこそ“サジェスト”されて、和解で終結するという場合が多いのです。
 多分、昨年3月の仮処分の審理においても、裁判官は米国グーグル側に対して、「男性の言い分は尤もなので、男性に関する記述部分を削除してはどうですか。」と和解を進めたのでしょうが、どうやら、米国グーグル側は蹴ったようです。相当の確信犯のようですね。東京地裁の仮処分が出てからも米国グーグルは、決定に従わず、放置を続け、また、差止めの仮処分が出される場合は、削除をしないという米国グーグルの不作為に対するペナルティとして、1日あたり50万円を支払えという命令が合わせて出されていたのですが、当然こちらも履行しようとしません。
 ということで、男性側は、今度は、東京地方裁判所に、“本訴”として、米国グーグルに対して、表示の停止と慰謝料としての損害賠償を請求しました。地裁においても、男性の言い分を認め、米国グーグルに対し、当該サジェスト機能の表示を禁止すること、および慰謝料として30万円の支払を認める判決を下したものです。

 今回の東京地裁判決については、あくまで日本国内の民事訴訟による判決ゆえ、米国グーグルの財産が日本国内にない限り、この男性は強制執行による同検索機能の停止と損害賠償が期待できそうもないということで、原告男性の代理人の弁護士も「グーグルの誠実な対応を期待するしかない。」と発言しているようですが、実際の手続はどうなのでしょうか。

 まず、日本の民事訴訟法には、「外国判決の執行」という制度があります。どういう制度かというと、外国判決でも一定の要件を充足すれば、日本国内で“承認”され、その承認に基づく“執行”が許容されるというものです。どうしてこのような制度ができたかというと、やはり取引の国際化が進んで、一国での判決が外国では全く認められないというのでは取引の安全が図れないということで、条約により国家が相互的に外国判決の執行を認めることで債権の回収を可能にするためです。
 なるほど、外国判決が日本国内で執行できる可能性はわかった、それでは日本国内の判決を外国でも執行できるのでしょうか。ネットでググってみましたら(グーグル検索したということです。)、California Business Law Officeというカリフォルニア州の法律事務所が日本語のHPをアップしており、それによると、日本判決を加州においても承認・執行することは可能である旨説明されていました。すなわち、外国裁判所が下した確定判決は、一定の要件を充足すれば、「統一外国金銭判決承認法」と裁判所間の礼譲原則に基づき、加州の裁判所により承認され、被告の財産に対して執行できるというものです。
 米国グーグルの本社は、カリフォルニア州マウンテンビューとありますので、被告適格はOKのようですから、今回のHP掲載停止と損害賠償についても、「統一外国金銭判決承認法」により金銭債権である損害賠償請求に関する強制執行はできそうですし、HP掲載停止についても「礼譲」(Comityといいますが)原則により承認され、執行まで行けるのではないでしょうか。グーグルのサーバーを差し押さえてしまえば、とんでもない事態になりますので、承認までいけば、先方も折れてくるのではないでしょうか。原告男性の代理人、頑張ってみてください。

 今回のグーグルの話は、実は他人事ではなく、海外と取引している企業においては重要な問題なのです。海外との取引の契約書の最後の方で「管轄」(Jurisdiction)という条項があります。先方のドラフトでは、例えば、ニューヨーク州の裁判所を管轄にするとか、こちらのドラフトであれば日本の裁判所を管轄にするとか書いてあります。ちょっと中立的に書けば、中立国の仲裁機関を仲裁管轄とするというような記載があります。ところが、今回の問題のように、管轄が日本ということで勝訴しても直ちに強制執行ができるというのではなく、先方の国の外国判決の承認・執行手続きにのせなくてはならないということがあるのですね。しかし、だからと言って先方の国の裁判所を管轄にしますと、(ちょっと古くなりますが)ヨルダンに負けた日本サッカー代表ではありませんが、アウェーで戦うこととなり、この時点で苦労することとなりますので、やはり管轄は日本の裁判所としておくべきでしょう。

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