賃料減額や不動産関係の弁護士なら神田元経営法律事務所へ
神田元経営法律事務所 TEL:03-6418-8011
平日 9:00〜17:00
お問い合わせ

正規雇用と非正規雇用

TOP > 正規雇用と非正規雇用

業務内容

神田元経営法律事務所
〒107-0062
東京都港区南青山5丁目11番14号
H&M南青山EAST301号室
地図はこちら

[正規雇用と非正規雇用]2014.5.1

シェア
 バブルの頃、未婚の女性にどのような男性を結婚相手として望むかという質問アンケートをしたら、「三高(高身長、高学歴、高収入)です。」という答えが返ってきたものです。ところが最近は、同じ質問をしたら「正社員の人」という答えが返ってくるらしいですね。女性の結婚相手としても正社員は高根の花になりつつあるようですが、大学生にとっても、正社員というステータスは就活の最大目標になっているようです。何故、「正社員」が魅力的なのかというと、皆異口同音に「安定しているから」「給料が(非正規社員に比べ)高いから」「幹部として出世の見込みがあるから」ということが挙げられます。

 確かに、「安定しているから」というのは、労働法から説明できることです。すなわち、現在の労働法においては、いわゆる定期社員(有期契約労働者)は、多くの場合、期間を定めて使用者と契約するわけですが、その契約期間中は、雇用が保証されているものの(労働契約法17条)その雇用期間が終了すれば、自動的に終了してしまうのです。それに対して、正社員は、多くの場合、期間を定めずに雇用契約を使用者と締結しており、労働契約法16条によると、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」とされ、裁判においても、使用者側はなかなか「客観的に合理的な理由」を充足するのが難しいというので、”事実上正社員の解雇はなかなか難しい”という社会的常識となってしまったことから、正社員の地位が安定しているというイメージになったと思われます。

 「正社員の給料が非正規社員に比べ高い」というのも、事実として言い当てていることでしょう。もちろん、非正規雇用だからと言って、正規雇用よりも賃金を安くするという法律はないわけで、同一労働でも、非正規雇用の労働者の方が給与が高くなっても何ら問題はないのです。しかしながら、現実的には、非正規雇用による労働者は正規雇用の労働者の約7割程度の給与水準だと言われます。これは、やはり正規雇用者は期間を定めずに雇用されており、終身雇用は崩壊したといってもある程度年功序列的な賃金上昇カーブが就業規則で保障されているので、短期間を想定した非正規雇用の労働者と給与水準で差が生じてくる理由ではないかと思われます。

 また、「正社員は幹部として出世の見込みがある」というのも、上述したとおり、期間の定めのない正規雇用の労働者が長期間にわたる幹部候補としての教育を受けられる機会が多いということからも、また何よりも非正規雇用による労働者は、労働供給の調整弁として雇用されているケースが多いということからも説明できるのではないかと思います。

 政府としては労働者を正社員でどんどん雇ってくださいと旗を振っているにもかかわらず、ユニクロとか一部景気のいい企業を除き、非正規雇用の労働者の正規雇用への転換には消極的です。やはり、一旦正社員を雇い入れると、なかなか解雇が容易ではないというところに引っかかるのだと思われます。最近、テレビドラマで「LEADERS」というのを見ました。トヨタ自動車の創業者である豊田喜一郎をモデルにしたものですが、トヨタも経営が苦しい時期があり、豊田喜一郎も整理解雇は行わないと組合に約束していたのが、結局銀行借り入れの関係から、整理解雇をせざるを得ず、その際は、自らも社長を辞任したということで、それほど、会社にとっては正社員を解雇することが大変であるという例ではないでしょうか。だからこそ、企業の方は正社員雇用に慎重であり、非正規雇用に流れるという傾向が避けられないのです。

 従業員の解雇に関る他国の事情は、どうでしょうか。例えば、米国であれば、レイオフ(一時帰休)というシステムがあります。業績悪化などにより労働調整が必要となった企業が、業績が回復した時には優先的に再雇用するという条件で、従業員を解雇するというもので、GMなど自動車メーカーでよく行われたことをご記憶のことと思います。EUでは、米国のレイオフのような簡単な労働調整制度は認めていない、すなわち解雇は日本同様困難なのですが、その代わりと言っては何ですが、金銭解決での制度が整備されているようです。すなわち、使用者の要望する解雇を認める代わり、解雇される労働者に補償金を支払うというものです。

 それでは、日本でも米国の様なレイオフ制度や、EUの様な解雇補償金制度を導入すれば、企業は正社員雇用に積極的になるでしょうか。私は、やはり現在のような正規雇用・非正規雇用という二重構造をまず撤廃することが先決だと思います。すなわち、従来は非正規雇用という形態がなく、ほとんど[期間の定めのない(正規)雇用]しかなく、その無期正規雇用の労働者を解雇するには、判例等で合理的な理由がない限り解雇できないという手厚い保護を受けさせてきた。その反動として、期間の定めのある非正規雇用労働者を法律で作ってしまったという我が国独自の事情があるのです。従い、現在の二重構造のまま、レイオフや解雇補償金制度を導入すると、非正規雇用は非正規雇用で期間満了で何の補償もなく解雇され、正規雇用労働者は、レイオフや解雇補償金により解雇されといったように、全体の労働環境が良くなるとは思えません。

 やはり、まず二重構造を廃し、正規も非正規もなく労働者は「正規労働者」と立場を統一し、その上でレイオフや解雇補償金制度を導入すれば、企業側は「正規労働者」を雇用しやすくなり、新卒者の就活環境も改善されると思います。何よりも、正規雇用として雇用されることになり、キャリアを積むことができますし、企業側としても、今まで非正規雇用しか経験していない労働者についても、「正規労働者」として雇用することの躊躇が減るものと思われます。このあたり、政府は正規雇用促進を唱っている一方、一定の基準による補償金を支払うことで正規雇用者も解雇できるというEU型の制度導入を目論んでいますが、現在の二重構造をまず解消することが先決だと考える次第です。
シェア