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拒否権についての豆知識 |
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[拒否権についての豆知識]2012.3.1東京電力の増資問題において、出資する国側は当然のことながら会社の特別決議までなしうるため発行済み株式数の3分の2以上の割合を求めるという態度に対し、東京電力側は何と逆に特別決議を成立させないための株式数、すなわち3分の1未満とすべきとの意見を主張しているという。個人的には、今後、発電・給配電の分離を実現していくためにも(株式会社の組織再編には特別決議が必要)国のイニシアティブを確保すべきであり、議決権の3分の2以上の株式を国が保有することが必要と考えるが、今回のコラムは政治的な話はともかく、株式会社において議決権の3分の1の株式を保有すること、すなわち、拒否権(VETO、ベトー、もしくはヴィートーと発音する。)について述べてみる。 拒否権というと、国際連合の安全保障理事会における拒否権が有名である。15カ国の議事体において、常任理事国である5か国は、たとえ他14か国が賛成してもその議案を成立させないという拒否権を持つということで、極めて強大な権限を有していると言える。米ソ冷戦時代は、安全保障理事会が機能しなかったといわれるのも、常任理事国の拒否権のためであろう。 塩野七生のローマ人の物語を読んでいて、拒否権の淵源としては、ローマ帝国の皇帝の権限に求められるのではないかと思った。ローマの皇帝の権力というのは、「皇帝」という一つの地位からすべての権力が派生するのではなく、シーザー、アウグストスの権力獲得の歴史において、権力を徐々に獲得していったものである。すなわち、「皇帝」の権力は、ローマ市民中の第一人者としての意味を持つ「第一人者(プリンチェプス)」、ローマ全軍の最高司令官を意味する「皇帝(インペラトール)」、および政策立案権を有し、議会である元老院が否決しても、その決定に対する拒否権(VETO)を有する立場としても「護民官特権(トリプチニア・ポテスタス)」の3権を併せ持ったものであるというのである。元首の意味での「第一人者」、軍事権を独占する「皇帝」が当然必要としても、拒否権としての「護民官特権」が必要であるというのが、いかにも元老院の地位が強かったローマ帝国的である。また、伝家の宝刀としての「護民官特権」を皇帝に持たせたというのがミソである。これがあったからこそ、ローマの皇帝足り得たのである。 現代においても、今でこそ資本関係は解消されたが、マツダが長年フォードに33.4パーセントの株式を保有されていた歴史がある。この株式保有のため、マツダはフォードグループ傘下だと言われ続け、実際、代表取締役をもフォードから派遣され続けた時代もあるほど、実質的に会社を支配されていたと言っていいだろう。それほど、特別決議への拒否権としての3分の1というブロック株式の重みというものがあろう。 にもかかわらず、3分の1の株式に付いての株価算定における支配プレミアムというものが、あまり論議されていなかったように思う。TOBの場合は、過半数もしくは3分の2以上の割合の株式取得を目指すものがほとんどであり、3分の1でいいのでTOBしますというのがなかったため、過半数の場合に市場価格の2−3割増しという支配プレミアムの実務慣行に対する拒否権プレミアムとでもいうべき率が確立されていないようである。東電の西沢社長が国の議決権を3分の1位未満にと主張しているのは、3分の1以上を取られたら、その時点で彼らの実質的経営権が奪われると感じているとしたらなかなか分かっているといえよう。 |
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