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[図書館の自由]2015.2.1

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 先日、DVDをレンタルして、「図書館戦争」という映画を観ました。有川浩(男性のひろしさんと思っていたら女性のひろさんなのですね。余談。)の原作の映画ですが、「阪急電車」、「空飛ぶ広報室」、「県庁おもてなし課」」とか、色々なジャンルの作品を書いており、正直ようわからんライターだと思っていました。この作品も、何か茶化した感じがして、長く見てみようと思わなかったのですが、大河ドラマ「軍師官兵衛」が終わり、好演した岡田准一ものを何か見てみようと思って、手が伸びた次第です。

 さて、実際に鑑賞してみると、内容自体は、荒唐無稽ながら、なかなか考えさせるものでした。内容を簡単に整理しますと、近未来の日本において、公序良俗を乱すような表現を規制するための「メディア良化法」という法律が制定され、メディア良化隊という公権力側の機関が、不適切な表現物、特に書籍を取り締まることとなり、やむを得ない場合には、(警察力以上の!)武力の行使も許されるということとなりました。
 それに対して、図書館が、「図書館の自由に関する宣言」を根拠として、「図書館の自由法」を制定し、なんと、図書館側も武装勢力を保有することとなり、図書隊という自衛組織を結成することとなり、図書館の自由をめぐり、良化隊と図書隊とが、武力衝突をし、最後は一応良化隊の図書館に対する侵襲を図書隊が排除するというストーリーです。

 確かに、日本国内で、図書館側が武力を保持する(もっといえば、自衛隊なり、国軍以外の公的組織であっても武力を保持する)ことは絵空事ですが、それでも、図書隊の存立基礎とでもいうべき「図書館の自由に関する宣言」というのは、現在の日本においてもあるのですね。日本図書館協会のホームページを見ますと、まさに「図書館の自由に関する宣言」の頁があり(http://www.jla.or.jp/library/gudeline/tabid/232/Default.aspx)、まず初っ端に、「図書館は、基本的人権のひとつとして知る自由をもつ国民に、資料と施設を提供することをもっとも重要な任務とする。」とあり、「この任務を果たすため、図書館は次のことを確認し実践する。
 第1 図書館は資料収集の自由を有する。
 第2 図書館は資料提供の自由を有する。
 第3 図書館は利用者の秘密を守る。
 第4 図書館はすべての検閲に反対する。」と述べ、
最後に、「図書館の自由が侵されるとき、われわれは団結して、あくまで自由を守る。」と締めくくっています。

 なるほど、図書隊は、この最後の「図書館の自由が侵されるとき、われわれは団結して、あくまで自由を守る。」というところを、武力を保有して自衛する権利の正当化根拠としているわけですね。
 映画のストーリー根拠はともかく、この宣言の中で重要なのは、「基本的人権の一つとして知る自由を持つ国民」というところです。日本国憲法21条は、1項で「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。」と、2項で「検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。」と規定しています。21条1項がいわゆる表現の自由の保障条項です。言論の自由、出版の自由の他にも包括的に表現に係る自由が基本的人権として保障され、「知る自由」についても、同条項において保障されると解釈されています。
 すなわち、言論とか、出版とかアウトプットする自由を保障するには、その言論・出版を行うための資料を仕入れるためのインプットを保障する必要があり、「知る自由」がインプットする自由として、「そのほか一切の表現の自由」として保障されるのです。図書館の自由に関する宣言の第1、第2は、そのことを敷衍したものであり、第4は、憲法21条2項前段を再確認したものであります。同第3は、利用者の秘密を守るということで、表現の自由というよりも、憲法19条の思想良心の自由に係るものといえます。

 表現の自由がなぜ重要な人権であるかというと、自由に色々なことが言えて、討論ができてということが民主的国家の最低限の基盤だからです。であるからこそ、どの言論が有害であり、どの言論が公序良俗に反するかの判定については、慎重であるべきであり、まして国家がその判定役を行うというのは、極めて恣意的に判定されがちであることは、歴史において学んだことです。だからこそ、検閲というものが憲法上も禁止されているゆえんなのです。表現の自由が保障されていないとなると、あっという間に民主制国家が崩壊し、独裁国家となってしまうのは、ナチスドイツが政権をあっという間に取ってしまった歴史からも明白なことです。映画「図書館戦争」を観て思ったのは、良化隊と図書隊が戦うということは、表現の自由が保障されず、検閲が日常化する国家において、あり得ないことです。そのような組織を形成する過程において、全て根こそぎ民主勢力は排除されてしまうからです。

 この映画の中で印象的だったのは、「人々の無関心が、このような国家の状況を作ってしまった。」という件で、まさに、52パーセントの投票率で、48パーセントの得票率しかない政党が、憲法を改正できる一歩手前まで来ているどこかの国の状況も、人々の無関心に乗じた政治勢力の仕業であることを皆よく認識すべきものと思った次第です。有川作品も今後どのようなものが出てくるか興味あるところです。
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