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安保法制と軍法会議 |
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[安保法制と軍法会議]2015.7.1
安倍晋三首相は、5月14日、戦争中の他国軍を後方支援することを可能とする新たな恒久法案と、集団的自衛権を行使できるようにする武力攻撃事態法改正案など安全保障法制の関連11法案を閣議決定させ、米国連邦議会で“公約”したとおり、今夏に法律として成立させるということを着々と進めています。今回、閣議決定された関連法案は、武力攻撃事態法改正案、周辺事態法改正案(重要影響事態法案に名称変更)、国連平和維持活動(PKO)協力法改正案などの改正案10本を束ねた一括法案「平和安全法制整備法」と、国会の事前承認があればどこでも素早く自衛隊を紛争地に派遣することを可能にする「国際平和支援法案」の二本立てとなっています。すなわち、紛争地を日本周辺と限定せず、地球上のどこでも自衛隊を派遣することができることになるわけですが、安倍首相は、これにより、他国(まあ、米国のことですが)の戦争に巻き込まれることは絶対にない。」と言いきっていますが、絶対と言い切ることは“絶対”にすべきではないでしょう。実際、早速自民党の幹事長である谷垣禎一ですら、5月22日、新たな安保法制に伴う自衛隊員のリスクに関し「実際を言えばリスクはある」とポロっと本音を漏らしたほどです。
この安保法制制定の動きに対し、当の自衛隊員はどう考えているのでしょうか。そもそも専守防衛で敵が攻めてきたときに国を守るという意識で入隊した隊員にしてみれば、アメリカが中東の何とかという国で戦っているから、ちょっと応援に行ってくれと自衛隊の最高の指揮監督権を有する内閣総理大臣から言われて、はいそうですかと行けるものなのでしょうか。実際の戦争の現場に出て、その恐ろしさから、指揮官の命令に逆らう隊員(抗命)や、戦地から逃げ出してしまう隊員(敵前逃亡)が出てくることもあり得るのではないでしょうか。何処の国の軍隊でも、抗命・敵前逃亡は厳しく罰せられるものであり、最高刑は死刑であることはざらです。これらの軍隊内における規律違反を裁判するのが、いわゆる軍法会議と言われる組織です。軍法会議という裁判システムは、一般国民を裁判する裁判所システムとは別個の体系にあるのが通常です。実際、日本でも旧軍隊においては、陸海軍それぞれに設置されていました。軍法会議の目的は、「軍隊指揮権を強固に維持し、指揮命令系統を守る」ことにあありましたから、必ずしも真実発見が優先される訳ではなく、現在の司法権として独立した裁判所のシステムとは違ったものであり、大審院の下にあるというものではありませんでした。 それでも、司法試験に合格した法務将校が裁判官役、検察官役を務め、一般国民を名宛人とした刑法とは別の軍刑法に則り、裁判を進めていたというものです。アメリカでも、統一軍事裁判法なる法律を根拠として、軍法会議が設置されています。ちょっと前の映画で、トム・クルーズが主演していた「A Few Good Men」というのがありました。キューバのグアンタナモ米国海軍基地内での殺人事件を裁くという内容で、トム・クルーズがハーバードロースクール出身の法務将校としてキャストされていましたが、軍隊の内部組織である軍法会議は外からうかがえないものなので、なかなかその意味で面白かった事を思い出します。 では、今後、海外派遣された自衛隊員において、抗命・敵前逃亡があった場合、その隊員はどのように処罰されるのでしょう。自衛隊の組織内に軍法会議はありません。なぜなら、日本国憲法76条2項には、「特別裁判所は、これを設置することができない。」という規定があり、軍法会議という最高裁判所の下に入らない独立した“特別な”裁判所は認められないからです。自衛隊法では、56条において、職務遂行の義務として「隊員は、法令に従い、誠実にその職務を遂行するものとし、職務上の危険若しくは責任を回避し、又は上官の許可を受けないで職務を離れてはならない。」と敵前逃亡を禁止し、同57条では、上官の命令に服従する義務として、「隊員は、その職務の遂行に当つては、上官の職務上の命令に忠実に従わなければならない。」と抗命を禁止していますが、同46条で、懲戒処分に関する規程を置き、その処分に対する不服の申し立ての処理は同49条で規定するにとどまり、結局、軍法会議のような制度はなく一般の裁判所での裁判に服するということになるのです。現在の自衛隊員は、56条、57条違反など自衛隊員の風上にも置けないという人が多数でしょうが、色々な人もいるでしょうから、今後、敵前逃亡・坑命の問題が出てくる可能性は十分にあるでしょう。さらに、政府としては、特別裁判所としての軍法会議の問題を避けて通れないこととなりうることも今回の安保法制の議論で思った次第です。 |
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