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[都市再開発法の改正]2016.10.1

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 先日、NHKの「クローズアップ現代プラス」“どうするマンショントラブル”というタイトルの番組を視聴しました。メインの話は、今回、都市再開発法が改正となり、区分所有者の3分の2の合意で建て替えが可能となることとなり、とある団地で建替え推進派と修繕派の対立構造が先鋭となっているというものでした。ここで、注意しなくてはならないのは、タイトルが“マンション”トラブルとなっていることから、今回の都市再開発法改正がすべてのマンションに適用されるかのように番組の構成がなっていたことです。都市再開発法が適用となるまさに再開発案件というのは、イメージとしては国分寺駅北口の再開発のように、従前からの家屋が密集して駅前広場なども確保できない地区を総合的に再開発するというような都市計画として行うようなもので、相当数の地権者が参画し、それぞれの敷地を一体的・有効的に利用するということで、例えば駅前広場を作り、建物については高層ビルを築造するというようなプランで、従前の地権者たちの権利は、高層ビルの区分所有権などに権利変換されるというようなケースです。従い、一棟のマンションの建替えとかでは同法の適用が想定されにくいものであり、現在、区分所有者の数及び議決権の5分の4が建替え決議に必要となっている要件を一気に3分の2までに緩和するというものではないことに注意すべきです。そのあたりの説明がないので、NHKとしてはちょっとミスリーディングなところがあったことは否めないでしょう。

 ただ、今回の番組で紹介していた“とある団地”については、団地内道路の整備や、公共的設備の設置などまさに総合的再開発が必要なケースといえ、改正再都市開発法の適用が可能であり、区分所有者の3分の2の賛成決議で建替え(というか再開発の一環としての建替えというべきでしょうが)ができるようになったケースといえるでしょう。その意味で、建替え推進派に勢いがついたことになるのですが、決議要件さえ揃えれば、建替えにGOという訳にはいかないようです。同団地に居住する70代の女性が「遺族年金暮らしでとても建替え費用の分担金をねん出することができない。」という意見を述べていましたが、建替えには新築マンションを買うにも劣らないだけの費用支出が必要となるのであり、その費用が出せない区分所有者、特に年金しか頼りになるものがない高齢者においては、建替えられた新しいマンションに入ることができず、代償金を受け取ってどこかに行かざるを得ないという現状があるのです。私が以前、建替えの相談を受けていたマンションでも、高齢者の区分所有者は、「建替え分担金の負担は無理。死ぬまで居させてほしいが、その代わり死んだ後は私の区分所有権を管理組合に無償で提供します。」ということを言われたことがあり、結局建替えはとん挫せざるを得ないということもありました。

 話がいきなり変わって恐縮ですが、聖徳太子が制定した「十七条の憲法」の第1条には、「和を以て貴しと為し、」とあることはよくご存じのとおりですが、最終条の第17条において、さらに第1条を確認したいのか、「夫れ事独り断むべからず。必ず衆(もろもろ)とともに宜しく論(あげつら)ふべし。」と規定されており、結局、日本という国は、聖徳太子の時代から事実上の全員一致が求められるのですね。この十七条の憲法の理念は、日本国憲法が施行されている現代でも生きており、例えば、成田空港で最後の一人まで任意の立退きをしない限り、滑走路が完成しないというのも、まさに十七条の憲法が生きているからでしょう。今回の都市再開発法による“建替え”の決議要件を緩和したことが突破口となり、区分所有法上も建替え決議要件が5分の4から、4分の3、いや3分の2まで緩和されることとなったとしても十七条の憲法の国である日本においては、事実上の全員一致が見込まれない以上、実効性がないと言わざるを得ないのではないでしょうか。実際、建替えが決まったマンションというのは、殆んど決議の際は全員が賛成したというのが多いと聞きます。マンションの建替えについては、決議要件の緩和のみならず、出ていかざるを得ない区分所有者へのケアまで考えていかないと実効的ではないと思われる次第です。
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