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英国のEU離脱問題(上)

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[英国のEU離脱問題(上)]2016.11.1

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 私的に行っている勉強会で、英国事情のエキスパートに、昨今、日本国内ではその後の報道があまりなされていない同国のEU離脱問題についてレクチャーをしてもらい、改めて色々と考えせられることがありました(英国というとイングランドだけという誤解がありますので、あえてUKと以後表記させて頂きます。)。

 皆さんご承知のとおり、2016年6月23日に、保守党のキャメロン政権下、UK全土において、ヨーロッパ連合から離脱するかどうかの国民投票が行われ、キャメロンにとってはあにはからんやですが、賛成52%ということで、離脱賛成の決議がなされました。キャメロン首相は同投票結果の責任を取り辞任し、内務大臣であったテリーザ・メイが後任首相に就任しました。保守党政権下でなされた国民投票における結果ですので、メイ新首相としても分離の方向で取り進めていかざるを得ず、まずは、来年3月に英国政府としてEUに対して、離脱の通告の意思表示をするのではないかといわれています。
 EUの組織規範を定めるリスボン条約においては、その50条で加盟国がEUから離脱することができる旨を定めているのですが、日本国憲法でも96条において改正ができる旨を決めてあっても、国民投票の方法などは国民投票法という下位規範において具体的に定められているのであり、リスボン条約50条も実際の離脱については、これをどのように取り進めていくのか、まずは下位規範で決める必要があるとのことですが、この点でEU内部、例えばEU理事会、欧州委員会、欧州議会などで見解が統一されていないという状況のようです。ここで感じるのは、今までEUも加盟希望国をどのようにして加盟させるか、留保させるかという“イン”のことについては真剣、精緻に考えてきたものの、逆に脱退するという“アウト”については実際的な問題として考えてこなかったのだなということです。よく日本人は、契約を締結するときにブレークするときのことをきちんと合意して置かず、「何か紛争が生じたときは、両当事者が誠実、真摯に協議して解決するものとする。」という玉虫色協議条項をおいていると揶揄されるのですが、EUでも同じことをしているのだなと思った次第です。

 さてそれでは、メイ首相がEUに離脱通告をして受理され、離脱手続の規定も泥縄式で整備され、離脱についての手続交渉が進んで行った場合、将来的にUKとEUの関係はどのようになると予想されるでしょうか。理屈的には、UKが完全に離脱した場合、EU諸国との取引(物的な貿易、資本的取引、人的移動など)については、例えば非EU加盟国である日本と同様の立場になるでしょう。すなわち、日本から自動車を輸出する場合はEUの規制に服さざるを得ず、EU域内で会社を設立するときもEUの規制を受け、何の規制もなく日本から移民することができないのと同じことになるはずです。しかしながら、物的な貿易については、特に安全面での規制が主でしょうから、UKにとっても何らかの規制があった方が何でもありの東アジアのどこかの国からの輸入品を無制限で受け入れるよりは、よほどEUの規制に従っていた方がいいわけですし、人的移動についても、なぜ今回の国民投票になったかといえば、ポーランドとか東欧諸国から無制約にUKに労働者が移動してきたことに対する反発があったわけで、離脱派としては移民規制がある方がいいわけです。残るは、資本的取引の制限ですが、これさえUKとEUとの間で何らかの“手打ち”ができれば、国際的金融センターとしてのロンドンを抱えるUKとしては何ら不利益が無いということでしょう。
 具体的なことでいえば、現在、EUでは「金融パスポート」制度というものが導入され、EU域内の何処で取得してもこのパスポートさえあれば、加盟国のいずれかで金融サービスの提供ができるというものですが、UK側としては、何も別にUK金融パスポートを創設することなく、EU金融パスポートの適用をUK国内で認めればいい話ですから、さほどの影響があるとは思えません(もちろん、ロンドンの国際金融センターとしての地位が低下して、フランクフルトがその地位を承継するということになると話は別ですが)。そうしますと、UKとEUの新たな関係において、あまりUK側に不利益が無いというのであれば、(離脱派にとっては移民規制ができるというメリットが最大化すれば)離脱してしまって正解ということになるのではないでしょうか。もとより、ユーロも導入していませんし、パスポートコントロールを無くすシェンゲン協定にも加盟していませんので、ある意味脱退しやすい位置にあったと言えるのかもしれません。

 そうだとすると、他のEU加盟国が、「それならば我々も脱退しようか」という機運になるかというと、そうはならないでしょう。あくまでも国際金融センターなどを有する実力国であるUKであればこその脱退論議であり、そのような実力がある他国はドイツくらいしかないのでは。EUを牽引するリーダー格のドイツが脱退してしまえば、EUもそれまでということですし、非実力国でありEUからの恩恵なくして生きられない南欧諸国は、脱退は自殺行為となりましょう(結局、ギリシアの脱退はうやむやになりましたね。)。究極的には、UKが本当に脱退したとしても、何かが大きく変わるというドラスティックな変化は生じないのではないかとうがってみている次第です。ポンドが安くなり続けるかはわかりませんが。
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