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トランプ新大統領就任の前に

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[トランプ新大統領就任の前に]2017.1.1

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 本コラムの読者の皆様、明けましておめでとうございます。本年も宜しくお願いいたします。

 さて、旧年中は英国のEU脱退など重大事件が色々と起きましたが、やはり米国大統領選挙、トランプ大統領誕生が一番の衝撃ではないでしょうか。予備選段階での暴論奇論から、かき回してくれる泡沫候補というイメージだったのが、共和党候補になってしまい、さすがに本選挙ではヒラリーが勝つでしょうと思っていたところが、勝ってしまったということで、米国外の日本国民にとっては、いったい米国内はどうなっているのかというのが正直なところでしょうか。どんな勝負事でもそうですが、結果が出た後になって、「私は最初からトランプが勝つと思っていた。」という人が出てきて、今回も後付けで色々な人がトランプの勝因を分析していますが、本コラムでも後付け論理でトランプが勝利したことの意味を論じてみたいと思います。

 いきなり日本国憲法の話で恐縮ですが、皆さんも中学、高校で日本国憲法の三大原則は何かを学んだはずですが、覚えておられますでしょうか。確か、国民主権、基本的人権の尊重、平和主義と書かれていたのではないでしょうか。平和主義というのは、今論議の的となっている憲法9条をコアとする文字通り平和を希求するポリシーです。この平和主義もまた稿を改めてお話しするとして、今回は、国民主権と基本的人権です。
 国民主権というのは、明治憲法の天皇主権に対する概念であり、国民が国家の来し方行く末を決する最終的正当性を有するということですが、要は、国の政治は多数決で決しましょうということで、別の言い方では民主主義ということになります。それに対し、基本的人権の尊重というのは、明治憲法下でも人権というものが認められていたのですが、法律や勅令などでその制限ができるという不十分なものであったことから、新憲法においては、国家権力による恣意的な制限ができないように、たとえその人権が少数者しか主張しないものであっても、“尊重”しましょうというもので、別の言い方では自由主義といいます。大学の憲法の授業では、民主主義と自由主義を合わせて、広義の民主主義と教えています。
 民主主義が行き過ぎると多数決で何でも決められる、戦前のドイツにおいては、合法的にすなわち“民主主義”において政権を奪取したナチスが、数限りない人権侵害を犯したことはご承知のとおりです。しかしながら、自由主義が行き過ぎると、どこかの空港のように一坪の土地に何千人が共有しているがために、収用が進まないということにもなりかねません。民主主義と自由主義は、常にバランスを取っている状態が要請されるものだと考えられます。従い、どちらかが強くなって両者のバランスが崩れると、片一方が盛り返すということになることで、バランスをまた取るということが繰り返されるのではないでしょうか。

 長々と前置きを話しましたが、さて、今のアメリカにおける民主主義と自由主義のバランスはどうなっているのでしょうか。ここからは、相当私見が強く入っておりますが、決して片一方に与する論ではないことを最初に断っておきます。私が思いますに、今回、トランプ候補が勝利したのは、自由主義に傾いていた流れを、民主主義的に戻すというカウンターが働いたからではないかと思います。それは、オバマ政権が民主党政権だったという単純な、また近視眼的なものではなく、アメリカ国内での少数者の人権保護という風潮が一旦この段階で見直しということになったのではないかと思うのです。
 すなわち、国内での少数者といえば、不法移民も含めてのヒスパニックであり、イスラム教徒であり、それに対峙する多数者は、WASPで代表される白人層であり、キリスト教徒です。今までは圧倒的に白人、キリスト教徒が支配する国だったのが、合衆国憲法で人種差別の禁止、信教の自由を保護することを徹底することにより、少数者保護が進んだわけですが、必ずしも、多数者がその流れを歓迎していたわけではないのではないでしょうか。少数者に取り住みやすい国にどんどんなっていくこと、たとえそれが不法移民であっても、その子供がアメリカ国内で誕生すれば市民権を得るということで、多数者にとってはだんだん住みにくくなっていっているのではないかと感じたのではないでしょうか。実際、ヒスパニックやモスリムの出生率は、白人層の出生率を上回っており、何時になるかはともかく白人層としては、このまま少数者保護を続けていけば、少数者が多数者になり、自分たちが少数者になってしまうのではないかという漠然とした危機感が潜在意識として持っていたところ、アジテーター(?)・トランプにより、その潜在意識が覚醒されたのではないかと思う次第です。
 特に、トランプがフォーカスしたのは、ラストベルトの白人シニア層ですが、驚いたことに、白人女性もあれほどトランプが暴言を吐いたにも拘らず、トランプに投票していたということは、なにもトランプへの人気投票ではなく、上述したように自由主義の制限、民主主義(白人中心という意味で)への回帰という意思表示があらわれていたのではないかと解釈できるのではないでしょうか。従い、アメリカ国民は、民主主義と自由主義のバランスがまた民主主義に傾いたと思えば、意外と早くまたバランスを取る投票行動をするのではないかと思います。それは、2年後の中間選挙になるのか、4年後の大統領選挙になるのかはわかりませんが。そのあたりは、アメリカ国民は、“広義の意味での”民主主義が染みついているので、外国である日本から心配することは案外ないのかもしれません。それよりも、“広義の意味での”民主主義に慣れていない日本国民の方が、右に行きすぎたり、左に行きすぎたりと振れが大きく、自分たちの心配をした方がいいかと思います。
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