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[うまい話にはご注意を]2017.11.1

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 「水を石油に変える人 山本五十六、不覚の一瞬」という本を読みました。山本五十六という名前は客寄せパンダで、実際の主人公は本多維富という詐欺師の話です。本多維富は、昭和13年当時の太平洋戦争開戦直間近の海軍省に“水をガソリンに変える技術を持っている”と売り込んできたのです。支那事変において日本軍は航空隊による渡洋爆撃を行い、大きな戦果をあげて航空機戦力の重要性に目覚め出していました。しかしながら、日本には細々とした油田しかなく、石油資源については9割を海外、特にアメリカからの輸入で賄わざるを得ない状況でして、これでは近代戦争、ましてや仮想的であるアメリカとの戦争ができるわけがない状況でした。そこに、本多維富が現れたのです。海軍省としてもそんなうまい話があるわけないでしょと当初取り合わなかったのが、“権威ある”学者がお墨付きを書いたり、実際に水からガソリンを製造したという会社の社長たちも出てきたりして、それでは実験をやらせてみようかということになったのです。
 この本多維富という男は、以前、「藁から真綿」を作り出す技術を開発したと、東京帝国大学工学部教授を信じさせ、支援者から金を引き出させた事件を起こし、詐欺犯として裁判にかけられたことがありました。しかし、本多維富は、どのような手品を使ったのか、関係者立ち合いの実験において、実際に藁を溶かしてその中に怪しげな液体を入れて、真綿を生成することに成功していました。誰も手品のネタを発見することができませんでしたので、何と結局裁判では無罪ということになっていたというものです。「水から石油」についても当初海軍省関係者立ち合いの実験では、水からガソリンを作り出すことに“成功”しており、海軍省の上部も「世の中の技術は日進月歩。思いもよらなかったことが起こりうる可能性はある。」と海軍省での立会い実験を行うこととなったものです。ただ、「藁から真綿」の頃から、本多維富を胡散臭い人物とみていた海軍省内部者が巧妙な罠を仕掛けておき、本多維富の行った実験をインチキと見破ったというものです。

 最近のニュースで、「ヒカル氏がVALUのユーチューバー騒動で謝罪動画を公開するまで」という記事を読みました。VALU(バルと読むらしいですが。)とは、“個人が株式会社のようにVAとよばれる擬似株式を発行することができ、売りに出されたVAは自由に売買することができる。取引は全てビットコインを用いて行われる。”(ウィキペディアの説明抜粋)とのことで、自分が自分の価値をあたかも株式のように分割して売り出し、その疑似株式については、市場で売り買いすることができるという金融商品のようです。ただし、配当という概念はないらしく、せいぜい“優待券”を付けることができる程度らしいです。
 ミソは、例えば、自分の価値を100等分してVAを発行します。当初は100VA全てを本人が所持していますが、自分には価値があると市場に思わせてVAに高い価値を付けさせて、一気に所持するVAを売却すれば、疑似IPOで一山充てることができるということでしょう。
 しかしながら、このVALUというシステム自体、最近はやりの言葉であるフィンテックとカッコよく喧伝されていますが、極めて危ういものを感じます。何よりも、何故株式会社という制度ができたかというと、個人と法人を峻別するためです。わかりやすく言えば、Aという人が自分の価値を株式という形式で金銭化したいと思えば、自分の芸能活動を切りだして、それをコントロールする芸能事務所を会社化するということであり、奴隷制度が認められていない現在では生身の自分の存在自体を株式という形式では金銭化できないのです。それをVAなる言葉で、ある意味核心の問題をすり替えているところがあり、何よりもそのVAの規制が全くなされていないところが大問題です。すなわち、株式という金融商品は、金融商品取引法という厳格なルールにおいて規制されているのに、VAは全くと言って規制がないようです。

 ヒカル氏の事件は、まさにこのようなVALU、VAの脆弱性をついたものといえるのではないでしょうか。ユーチューバーとしてのヒカル氏の実力はさほどよく知りませんが、自分の価値を市場で高値を付けて、ヒカル氏の友人や自分が所持するVAを一気に売りぬくということは、金商法であれば、インサイダー取引や、虚偽情報の流布による相場操縦などに該当しかねず、相当“やばい”ことになるわけです。このあたり、前月のビットコインの事例などと同様、フィンテックとカッコよく称したモノと同じく、やはり投資する側で防御しなければならないでしょう。
 上述した「水からガソリン」の事例でも、ちょっと冷静に考えれば、H2Oという水素と酸素でしか組成されていない水が、炭素Cが含まれる有機物になるのかわかるはずです。VAについても、ちょっと冷静に考えれば、疑似であるものは、何処まで行っても本物ではないことはわかるはずです。ヒカル氏が詐欺の意思を持っていたかどうかは公表されている事実からは何とも言えませんが、ヒカル氏が買い戻しをしているという話も出ており、損失が確定した人にとっては全額回収できないこととなるわけで、うまい話にはご注意をということですね。
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