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日本における土地所有の歴史

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[日本における土地所有の歴史]2018.5.1

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 最近、テレビの林修さんの番組などバラエティでよく見る本郷和人さん(1960年生まれなので、若手とは言えないかもしれませんが)という若手歴史学者(東京大学史料編纂所教授を務めておられます。)が、なかなか説得力のある書籍を書いています。最近読んだのが、文春新書の「日本史のツボ」という書籍ですが、おすすめのポイントというと、例えば「応仁の乱」というように、ある時代のある事件という狭い範囲を取り出して解説するというのではなく、天皇、宗教、土地など7つの切り口(著者はそれを“ツボ”と呼んでいますが)で、古代から現代までの通史で解説しているというところです。
 歴史学者は、専門の時代というのがあり、近代史の学者であれば、それ以外の古代とか中世といった時代については触れないというのが普通なのですが、本郷さんは中世史が専門なのですが、古代から現代までを通して歴史をみるといういわばヨコの切り口に囚われず、タテの切り口で歴史を論じるので非常に新鮮に感じます。是非とも「日本史のツボ」をお読みいただければと思いますが、その7つの切り口(ツボ)の中では「土地」という切り口に一番興味を持ちました。

 日本史を習ってどうも理解しにくいのが、律令制における公地公民制から始まり、荘園が現れ、そののち武士が誕生していくというストーリーです。本郷さんは、国が土地を民衆に貸し出すという公地公民制度などという実態はなく、土地を開拓して農地とした者の土地所有に関わる権利を追認していったのが、日本史における「土地」の通史だというものです。すなわち、「三世一身の法」「墾田永年私財法」により、開拓した土地の私有が認められていくことになるのですが、あくまでも土地所有権を認められるのは、すなわち両法の恩恵に与ることができるのは、藤原氏などの貴族、春日大社などの寺社に限られていました。そこで、農地を開拓した者はどうしたかというと、それら私的に土地所有を認められていた貴族・寺社に開拓した農地を寄進することにして、自分たちは、開拓した農地の現地マネージャーとして“事実上”の土地所有が黙認されたことになります。この寄進された土地のことを「荘園」と呼ぶことになります。
 本来ならば私的土地所有を認めても、国に対して税金を納めなければならないはずですが、貴族・寺社たちは、“この土地はあくまで庭園であるから、生えている植物は稲のように見えるが観賞用のものであるから税金の対象ではないし、徴税の必要もないので国の役人の立ち入りも不要である。”というとんでもない理屈をこねて「不輸不入の権(利)」を獲得してしまいます。これが荘園というものの始まりになるわけで、そうしますと国に納めるべき税金が全て(もちろん、現地マネージャーたちの取り分がありますが)大貴族・大寺社の懐に入ってしまいます。この荘園制度により、平安時代というのは国家財政が破たん寸前までに行ってしまい、特に藤原氏が巨額の収入を得ることでわが世を謳歌することになったのです。ちなみに、荘園の現地マネージャーは、庄司とか下司とか呼ばれていましたが、庄司という名称は、今でも苗字として残っていますね(庄司の他にも、東海林、荘司、庄子という表記がありますね)。また、東京大学に御厨貴という政治学の教授がいますが、御厨(みくりや)というのは、天皇家の荘園の現地マネージャーの名称です。私の苗字である神田も、神社系の荘園の現地マネージャーが由来のようです。
 ところが、時が経つにつれ、現地マネージャーたちに不満が出て来ました。自分たちが開拓した土地で、自分たちが稲を育てているのに、京都の貴族たちにピンハネされて、自分たちの土地所有権が認められないというのはおかしいと言い出します。何よりも国家として機能が果たされず、警察業務も機能しなくなったので、自分たちで武装せざるを得ないことになっている。すなわち、武装農民のことを武士というようになるのです。間の話を大きく端折りますが、鎌倉幕府というのは、これら武装農民の土地所有権を認めるためにできた政権なのですね。
 一旦、武士の政権が確立しますと、どんどん武士の力が大きくなり、京都の貴族寺社の荘園をどんどん侵食していきます。当初は、貴族寺社側と武士側とで占有する土地を折半したり、年貢を折半したりといった妥協策で進んでいきますが、どんどん荘園という存在がなくなっていき、最終的に完全に消滅してしまうのが応仁の乱なのです。応仁の乱により、今までの中世的権威が完全に崩壊し、実力のある者が土地所有を自ら認めていくという戦国時代になっていくのです。その後の統一政権である豊臣政権、徳川政権においても重要な機能は、土地所有権の認定・裁定でした。そして、明治維新を経ることにより、近代的土地所有権の時代となっていくのです。

 これらの土地所有をめぐる歴史というのは、やはり通史でみていかないとその本質がわからないと思います。何故、荘園制度が成立して、何故、武士が現れて政権を取っていくことになるのか、本郷和人教授の「日本史のツボ」はそのあたりを非常に明快に説明していて勉強になります。一度お読みになることをお勧めします。
以上
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