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[録音と証拠]2018.6.1

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 テレビ朝日の女性記者に対するセクハラ疑惑の渦中にあった財務省の福田淳一事務次官が辞任しました。しかしながら、本来被害者であるはずの女性記者の方に対しても、取材中の会話を録音して、その音声データを外部である週刊誌に提供したことについて批判が寄せられています。自身が所属するメディアの外のメディアに取材した内容を提供することについて倫理的に問題があったかどうかはメディア外にいる人間としては何とも言えないとは思いますが、上司に対してセクハラがあったことを訴えてもいわば握りつぶされたのですから、女性記者がとった行動もやむを得ないものと言わざるを得ないのではないでしょうか。

 それはともかく秘密録音の是非について考えてみたいと思いますが、刑事の世界と、民事の世界においては、秘密録音の扱いも違ってきます。刑事事件において警察など捜査機関が行う秘密録音については、基本的に裁判所の令状を必要とする立場であり、令状のない秘密録音は「違法収集証拠排除法則」から刑事裁判における証拠から排除されるべきとの考えが主流であり、万が一、捜査令状など取る時間がない緊急時に行った秘密録音については相当と認められる限度で証拠能力を認める考え方もありますが、基本的には否定的と考えてよいでしょう。これに対して、民事の世界においては、基本的に自分の口から発せられた発言については自ら責任を負うべしということで、秘密録音については、民事裁判などでよほどの相当性を欠くようなことがない限りは、証拠として採用しうると考えるのが普通です。まあ今回の福田財務次官のセクハラ行為について、女性記者が不法行為に基づく損害賠償を民事裁判を提起して請求するという兆候はないようですので、福田次官のセクハラ発言はネット上での公開はともかく、民事裁判上での証拠能力を問われることはないということでしょうか。

 とはいえ、ビジネスにおいては、秘密録音を行うことは、相手方との取引の関係をも勘案するとよほどの場合でない限り、なかなか秘密裏に行うのも抵抗があるかと思いますので、通常は相手方の同意を取って行います。良く企業のサービスセンターに電話をしますと、担当者が出てくる前に「サービスの品質向上のために、お客様との会話を録音させて頂きます。」というテープが流れますが、要は、“後で揉めると嫌なので、録音させて頂きます。”と言っているようなものです。実際の場面においては、テーブルの向こう側の相手に対してテーブルの真ん中にレコーダーを置いて録音の承諾を要請するのですが、角が立たない言い方としてこのようなのはいかがでしょうか。「言った言わないで揉めるのはお互いにとって得になりませんので、今回の会話を録音するのはいかがでしょうか。録音した内容も、そちらからご要請があればいつでも複製して提供させて頂きますので、両者にとって証拠とすることができます。」といえば、相手方にとってハードルが下がるのではないでしょうか。

 問題は、録音した内容です。よく相談に来られる方が、鬼の首を取ったような顔をして「重要な内容を録音してきました。これで裁判に勝てると思います。」と言われるので、再生して聞いてみるとこれがよくわからない内容で、ちょっと証拠として裁判所に提出するのは憚れるというのが結構あります。一体誰が話しているのかよくわからない、当事者同士ではわかっていることは端折ることから第三者にとっては何について話しているかわからないということが往々にしてあります。また、時系列通りに話していないので、いつの間にか昔に話が飛んでしまって時的論理性が担保できないというケースもあります。
 では会話を録音するときにはどのような点に注意すべきなのでしょうか。よく昔作文をするときに5W1Hを意識しなさいと言われましたが、録音の時も同様です。誰が、何処で、何時、誰に対して、どの様に、何をしたかを意識するのです。そこで、まず録音を開始するときに、「現在は何年何月何日何時何分です。どこどこにあるA社の応接室に、A社の〇〇さん、△△さん、B社の□□さん、◎◎さんがおられます。録音しているのは私▽▽です。」と誰が、何処で、何時という要素を一気に記録してしまうのです。
 次に、録音している最中の会話についても誰がしゃべっているかを明確にする必要がありますので、「〇〇さん、この点についてはどう思いますか。」という振りをして、発言者が誰であるかを明確にします。また話の内容についても、何のテーマについて話しているかを、相手にとって分かっていることでくどくなるようでも明らかにします。その上で、相手方の回答を明確に取りたいのであれば、イエスかノーで答えるようなクローズド・クエスチョンにした方が良いかと思います。
 要は、裁判所に提出できるような証拠になるわけですから、録音した内容を反訳(文章に起こすこと)すれば、ほぼ「陳述書」になるようなイメージでインタビューをして頂くことが肝要かと思います。
 現代は、録音が非常に容易な時代であり、携帯電話は設定さえしておけば、全ての会話が録音できるようにもなっており、電話はまず録音されているという意識で、自分の言葉に責任をもって話するように意識すべきでしょう。
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