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[「下町ロケット」新シリーズ]2018.11.1
10月14日から、TBSで「下町ロケット」が始まりました。前回シリーズ同様、知的財産権を巡る問題が生じ、登場人物として弁護士が出て来ますので、法廷ドラマとしても、興味を引く内容となっています。法廷ドラマにも色々とありますが、弁護士の目から見ますとちょくちょく法律的に間違っている(法律の内容としてや、法律手続としても)ものがあり興ざめするものがあるのですが、「下町ロケット」は、原作もテレビドラマも私が独立するまで勤務していた事務所の先輩弁護士であるS弁護士が法律監修をしているので、非常によくできています。S先生は弁護士になる前に弁理士の資格を取っている理系の人ですので、法律面も技術面も両面良くわかるという知財分野ではその名の知れた存在です。
(ネタバレになりますのでまだ原作などお読みになっていない方はご注意頂きたいのですが、)今回は、ギアゴーストという会社が、ケーマシーナリーという会社から特許侵害で訴えられ、何と15億円もの損害賠償を請求されるという事案です。粗筋を述べますと、ギアゴーストの顧問弁護士(中村梅雀がキャスト)が、金に目がくらんで、ケーマシーナリーの顧問弁護士(前作に続きピーターこと池畑慎之介がキャスト。ピーターは悪党役があってますね。)に、ギアゴーストの技術情報を秘密裏に流してしまい、何と悪党のケーマシーナリーはその情報を基に特許出願したというもので、そうなるとその情報を基にギアゴースト社が製作する製品は、全て特許侵害になってしまうというものです。そこに、恵俊彰扮する神谷弁護士が颯爽と現れ、ギアゴーストとケーマシーナリーの両顧問弁護士の共謀であることを見抜いて解決するというものです。原作にもきちんと書かれていましたが、両顧問弁護士は、不正競争防止法で処罰されたというものです。何故特許法で処罰されないかというと、ギアゴースト社はその技術情報を特許申請していなかったからです。しかしながら、特許を取っていなくても、その技術情報が「営業秘密」であれば、不正競争防止法が保護してくれるのですね。「営業秘密」とは、「秘密として管理されている生産方法、販売方法、その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」(不正競争防止法2条6項)と定義されていますが、ギアゴースト社の有していた(トランスミッションに関わる)技術情報はこれに該当して、法律により保護されるというものです。 原作では、ケーマシーナリーの顧問ピーター弁護士は、話が進んだところで、“元”弁護士で再び現れます。そのあたりは詳しく書かれていませんが、どうやら、不正競争防止法違反で処罰されて、弁護士会においても懲戒処分を受けたことが推察されます。弁護士法56条において、弁護士は、弁護士法や所属弁護士会・日弁連の会則に違反したり、所属弁護士会の秩序・信用を害したり、その他職務の内外を問わず「品位を失うべき非行」があったときに、懲戒を受けることになり、その懲戒の種類としては、戒告、業務停止、退会命令、除名があります。察するに、ピーター弁護士は、退会命令か除名の処分を受けたのでしょうか。退会命令や除名というのは、弁護士にとって仕事ができなくなる意味でとても重い処分であり、相当なことをしでかさないと受けない処分ですが、今回のピーター弁護士は、紛争の相手方弁護士と共謀して、相手方の営業秘密を盗み出し、さらには訴訟まで提起するという弁護士として「品位を失うべき非行」を行ったものであり、やはり除名まで行ってもおかしくないケースと思います。きっと、相棒の中村梅雀弁護士もピーター弁護士と同じような処分を受けたのではないでしょうか。 ピーター弁護士ほどの極悪事案は稀であるとしても、弁護士の懲戒処分で散見されるのは、利益相反事例ではないでしょうか。端的に言えば、弁護士は紛争両当事者のいずれかの立場しか立つことができず、両当事者から頼まれて両方の代理人を務め、事件を解決したということは、町の有力者が間に入ってというケースではありそうですが、弁護士がこれを行うと立派な利益相反となり、それこそ懲戒処分を受けることになります。不動産取引などでは、宅地建物取引業者が、“両握り”と言って、売主、買主両方の仲介者となって取引を成立させることが宅地建物取引業法上許されており、報酬も両方からもらうことが可能ですが、弁護士ではありえません。結構、利益相反の範囲は厳しく、例えば、複数の弁護士が所属する法律事務所で、A弁護士が以前に事件処理した依頼者に対して、B弁護士がその事実を知らずにその元依頼者に対して訴訟提起などすることも利益相反になりうるのです。故意でなくても過失でも利益相反が生じうるということで、大きな事務所は、利益相反のチェックをするまでは事件が受けられないということになります。さらに言えば、一度相談を受けて相談だけで終わった人でも、その後にその人に向けて訴訟を提起することは利益相反になるのですね。そんなことがあるのかというと、交通事故とか、債権取り立てなどではなかなかないでしょうが、知的財産訴訟などにおいては、知財に強い弁護士は限られてきますので、相談を受けた人の逆の立場の人が相談に来て、両方とも受任できないということはありがちなことのようです。アメリカなどでは、そのような限られた分野で訴訟を起こす場合、まず敵に回したら怖い弁護士のところに受任してもらうわけでもなく相談に行くということもあるらしいですね。日本でも知財訴訟を起こす場合、S弁護士のような敵に回したら怖い弁護士にまず相談に行くというのも作戦になるのかもしれません。 |
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