賃料減額や不動産関係の弁護士なら神田元経営法律事務所へ
神田元経営法律事務所 TEL:03-6418-8011
平日 9:00〜17:00
お問い合わせ

日産はどこに流れていくのか

TOP > 日産はどこに流れていくのか

業務内容

神田元経営法律事務所
〒107-0062
東京都港区南青山5丁目11番14号
H&M南青山EAST301号室
地図はこちら

[日産はどこに流れていくのか]2019.1.1

シェア
 日産自動車の代表取締役であったカルロス・ゴーンが、日産の有価証券報告書に自分の役員報酬を計約50億円少なく記載して申告したとして、金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)容疑で、逮捕されました。同じく代表取締役であったグレゴリー・ケリーも逮捕されました。日産自動車自体も金商法違反となるわけですが、どうやら検察当局と司法取引をしたようです。日本の司法取引は今年6月、改正刑事訴訟法施行で導入された制度で、容疑者や被告が共犯者など他人の捜査や公判維持に協力する見返りに、自らの起訴を見送ってもらったり、求刑を軽くしてもらったりする制度で、企業自身も司法取引が可能となるので、今回、日産自動車が司法取引を行ったのでしょう。

 しかしながら、有報の虚偽記載罪というのは、昔の良い方で言う形式犯であり、果たして日産自動車の最高責任者を逮捕してまで立件する事件かと思われますし、過少申告した金額の“確定”について争点化すれば、果たして確実に有罪とまで持っていけるのか、検察はどこまで自信を持って立件したのでしょうか。有報虚偽記載罪という形式犯でまず逮捕しておいて、背任とか業務上横領などを立件しようとしているかもしれませんが、なかなかハードルは高いものと思われます。

 どうやら、西川社長をはじめとする日産プロパーの人たちが、多少無理筋でも、検察と司法取引してでも、ゴーンを“血祭”に挙げてクーデターを起こしたのが実情のようです。フランスのマクロン大統領は、現在、国内では燃料税増税問題で総スカンを食っているようで、人気挽回策の一つとして、ルノーと日産を完全に経営統合して、ルノーの大株主のフランス政府として英国の日産工場を英国のEU離脱を理由として閉鎖させ、フランス国内に工場を持ってこれれば雇用拡大を実現したいというのが、マクロンの腹の中ではないでしょうか。ゴーンは、今までは、日産の自主性・独立をルノー本体やフランス政府に対して主張してきたものの、マクロンから、経営統合をしないとルノーの経営から手を引いてもらうぞと大株主として脅かしたのでしょうか。ある時点から、ゴーンが経営統合に熱心だということを日産プロパーの経営陣が悟ってしまったので、やむなくクーデターに走ったといったところではないでしょうか。

 しかしながら、西川社長らは、明智光秀にならないか心配せざるを得ません。明智光秀は、本能寺の変というクーデターで、織田信長を排除するところまでは綿密に計画したのですが、本能寺の変後の彼の行動を見ると、幕府を開くとか明智政権を構成する行動もとらなかったことからすると、クーデター後のビジョンを何も構想せずに、走ってしまったとしか言えません。西川さんたちも、クーデター後の日産独自性・自主性を確保するような行動を今(原稿作成日:12月20日)現在取っていません。織田信長は生き返ってきませんが(代わりに羽柴秀吉にやられましたが)、ゴーンは生きています。今回、再逮捕されて更に勾留されていますが、いずれ保釈されて出てきます。罪状からすれば、第1回の公判期日まで待つことなく、現在の勾留期限満期で出てくる可能性が十分にあります。現在、日産の取締役会は、ルノー側から4人、日産プロパー側から4人出して構成されていますので、ゴーンとケリーが勾留されている機関は、4対2で取締役会決議を成立させることができるのです。しかし、ゴーンとケリーが戻ってくると4対4となり、自由に取締役会決議を成立させることができません。

 私が考える西川さんたちがクーデター後の権力奪取を完成させるには、2つの方法があるかと考えます。まず一つ目は、日産自動車としてルノーの株式を買い増すことです。現在、ルノーは日産株を43.4%を保有して、当然議決権を有しています。一方、日産もルノーの株式を15%保有していますが、その保有株式については、議決権がありません。フランス会社法では、40%以上の出資を受ける会社は、出資元の企業の株式を保有しても議決権が認められないからです。この状態をブレークするには、どの様なことが考えられるでしょうか。フランス会社法においては、ルノーの日産への出資比率が4割を切れば、原則として、日産もルノーに対する議決権が復活するようです。一方、日本会社法においては、日産がルノー株を現在の保有比率15%から25%まで買い増せば、ルノーが持つ日産の議決権が行使できなくなることになります(会社法302条・会社法施行規則67条)。ルノーと日産の間には、「改定アライアンス基本合意書(RAMA)」と呼ばれる協定があるとのことです。経営危機に陥った日産をルノーが救済した後に締結された、いわゆる株主間協定書です。RAMAにおいては、ルノーが日産に最高執行責任者(COO)以上のポジションを派遣しうること、日産の取締役会は、日産がルノーよりも1人多い状態を維持できることなどです。重要なのは、RAMAにおいては、日産側が仏政府などから経営干渉を受けたと判断した場合、独自の判断でルノー株を買い増せる項目があるとのことです。すなわち、ルノーへの出資比率を現在の15%から25%以上に買い増しができ、その暁には、ルノーの日産株式の議決権行使をブロックすることができるのです。ですから、何故、西川さんたちは、取締役会で速やかにルノー株の10%以上の買い増しを決議しないのでしょうか。ゴーンたちが娑婆に出てこない今が最大のチャンスと考えるのですが。

 もう一つは、フランス会社法でも、ルノーの日産に対する出資比率を4割未満にさせることです。よもや、ルノーが自分の保有株式を売るわけがありませんから、日産としては新株発行して、ルノーの保有比率を希釈化することが考えられます。単純に言えば、43.4%?40%=3.4%以上の新株発行をすればいいわけです。日本の裁判所においては、支配権奪取のための新株発行は違法と判断されていますが、3.4%程度の新株発行であれば、電気自動車工場新設とか何らかの事業に関わる増資プランを打ち上げれば、裁判所で新株発行を否定される可能性は低いと思います。出光の新株発行においても、裁判所で合法という判断をされたのは最近のことです。何よりも、新株発行は、取締役会決議でできますので、何故、西川さんたちは、速やかに決議しないのでしょうか。今回のクーデターは、どうやら経産省なども絡んでいるようなので、経産省から政府系ファンドに声を掛ければ、それぐらいの投資はすぐに決済してくれるのではないでしょうか。

 西川さんらが日産の独立性・自主性を確保できるのか、ゴーンの巻き返しが起こるのか、今までの御恩(ごおん)は忘れないにしても、Gone with windとなるかどうかは、西川さんらの決断次第でしょうか。
シェア