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父が昨年死亡したので、兄弟間で遺産分割を進めようと話しあい始めたときに、父と死亡時まで同居していた長兄から、「実は父の遺言が見つかった」という話しがあり、家庭裁判所で遺言の検認手続がありました。遺言の内容は、主たる遺産を長兄に相続させるというものでした。改めて、遺言の字を見てみますと、生前父は字が下手だったのであまり字を書くのが好きでなかった割には、整然とした筆跡で、とても父の時とは思えません。 このような場合、どのように対処したらいいのでしょうか。


そもそも遺言が本当に被相続人であるお父さんが書いたものかが争われる場合は、遺産分割の前提条件を充たさないこととなるので、遺産分割手続を進めることができません。件の遺言が“偽筆”だと疑念を持った相続人が、調停・審判など家庭裁判所で行われる遺産分割手続とは別個に、地方裁判所に「遺言書真否確認請求事件」の訴えを提起することとなります。地方裁判所で被相続人が申請に作成した遺言かどうかの判決が確定して、 ようやく 遺産分割手続 に進むこととなります。

さて、ここで問題となるのは、果たして被相続人の真筆か偽筆が“はっきり“結論としてでるかです。みなさんは、京都の有名な布かばん屋さん(一○帆布という店名です。)の相続事件をご存じでしょうか。長男と三男が争った事件ですが、詳しい内容、特になぜ二度も遺言書の真否確認訴訟が提起されたかは、ウイキペディアなどをご参照いただければと思いますが、興味深いのは、一度目の真否確認訴訟では長男側が勝利し、ところが二度目の訴訟では三男側が勝利していることです。両訴訟で、遺言書の真贋について筆跡鑑定を行ったかどうかは、外部からは明確に分からないのですが、通常行われるでしょうから、両筆跡鑑定が全く違う結果を出していることが強く推測されます。
すなわち、筆跡鑑定さえすれば“真実は一つ”とばかりに、正義は勝つという結果には必ずしもならないということです。
相続人としては、自分に有利な遺言は本物だと思い、自分に不利な遺言は偽物だと思いがちです。勢い込んで鑑定申請をして、相手方の遺言に軍配が上がることもあり得ないことではありません。それほど、筆跡鑑定というのは“不安定“なものなのだということを念頭に入れておいてください。

では、どうすればいいのかと相談されるときは、いやな言い方ですが、被相続人となる方の死水は、相続人自身が看取る、すなわち最後の面倒を見なさいということとなりましょうか。そうすれば、あり得もしない遺言が出てくるということが相当防ぐことができるのではないでしょうか。