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最近の解決事例紹介(企業法務編)− 売掛金の回収手段としての仮差押え 2015.4.1

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 懇意にしている会計事務所から、顧問先の会社が商品を販売したが、売掛金を回収できないので相談に乗ってくれないかという連絡がありました。早速、相談者とお会いして状況をお聞きしましたところ、相談者の会社は、地方の特産品を首都圏で販売することを事業としていますが、とある会社A社から、当該特産品を小売したいということで、相談者の会社から卸売してほしいという要請を受けたとのことです。
 相談者の会社も用心深く、最初は、現金取引でないと受けませんということで、掛けリスクを取らない方式で商品を販売したのですが、何回か、きちんと商品代金を支払い、商品も引き取ったので、相談者の会社も安心して、A社から掛け売りをしてほしいという要請を受けたときに、それでは、A社の状況をさらに詳しく提示してくれれば、掛け販売をしてもいいという回答をしました。A社からは、待ってましたとばかりに、会社概要というまとめた物を出してきました。それには、取引銀行などが書いてあり、一般の会社が照会を受けたときに提出するようなものと思えました。さらには、相談社自身もA社の東京営業所と言われたところに出向いてみて、どのような会社かも実見してきましたので、最終的に掛け売りをすることを決断しました。

 ところが、このA社というのがとんだ曲者だったのです。相談者の会社が商品を納入した後に、約定通りに請求書を送ったのですが、約束の支払日に支払が無かったので、電話で催告しようとすると、「この電話はお客様の都合でお掛けになれません。」というコールが流れ、そこで、相談者がA社の東京営業所へ出向くと、既に蛻の殻だったとのことです。
 相談者からの相談を受け、それでは、A社が本当に事業を継続しているのであれば、銀行口座があるだろうし、事業資金として銀行から借り入れをしている可能性もあろうから、A社の銀行口座を仮差押えすることで、A社からの回収のリトマス試験を行うことを提案しました。
 すなわち、実際に事業を展開しておれば、取引先との決済のためにも、銀行口座にも常時それなりの金額が預金されているだろうし、また、銀行から借り入れをしておれば、万が一にも口座が仮差押えされれば、銀行としても貸付金の回収に不安を感じ、貸付先に事情を聞いてくるでしょうから、その段階で何らかのアクションを取ってくるのが通常であり、仮差押えを本差押えに切り替えるための訴訟提起をすることもなく、和解が成立するというのは少なからずある話だからです。銀行が本当に貸付先の財務状況に不安を感じるときは、最悪銀行取引約款において期限の利益を喪失させて、回収モードに入ってしまうことも考えられるからです。
 仮差押えの対象は、A社が提出してきた会社概要の中の取引銀行欄に記載されていた中の最初の2行の口座としました。多くの会社の場合、いわゆるメインバンクをトップに記載するのが常識で、2番目には準メインバンクを書くでしょうから。仮差押えの申立自体は順調にいきました。相談会社は、きちんと取引に関る書類を保管していましたので、仮差押担当裁判所の裁判官にも、非常によく理解頂き、1回の審尋(相手方の銀行口座を仮にでも差し押さえるという話をしているので、当然相手方A社は裁判所にきません。)で決定が出ました。決定に基づき、B行、C行の口座を仮差押えをし、銀行からの「第三債務者陳述書」を待つこととしました。第三債務者陳述書というのは、民事保全法においては、相談者の会社を「債権者」、A社を「債務者」といい、A社が債権(預金債権)をB行、C行に持っておれば、それらの銀行を「第三債務者」というのです。その第三債務者陳述書が2行から戻ってきましたが、B行については普通預金口座に約3000円の残高がありましたが、それ以外の口座は無く、C行に至っては、取引口座が無いという回答でした。
 前述しました通り、A社がB行から借り入れをしている場合は、約3000円しか差し押されなかったとしても、銀行としては貸付金の回収に不安を抱くでしょうから、貸付先に当該仮差押えを何とか処理するようにとの指示が直ちに行くでしょう。また、仮とはいえ差押えを受けた貸付先には、追加融資などしなくなるということで、相当貸付先にはプレッシャーになるでしょうから、仮差押えがなされれば、直ちに債務者から電話がかかってくるはずです。
 しかしながら、B行、C行からは、かような回答が出てきて、この段に及んで、A社がいわゆる取り込み詐欺を行っているということが図らずも明らかになったということです。相談者の会社としては、取引開始時に行う種々のチェックはきちんとしていたのですが、詐欺を行う者の方が更に手がこんだことをしたというところでしょうか。今回は、解決事例紹介とは誠に言いにくいのですが、仮差押手続を債権回収を進める上でのリトマス試験紙として利用したというものだといえますが、相談者にとっては誠にお気の毒なことになりました。
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